こんぺいとうのなみだ
体育祭が無事終了し、皆で片付けをはじめる。
楽しい時間はあっという間だ…。思わず寂しく感じる。
グラウンドのテントがどんどん片付けられて、思わず哀愁が漂う。
3年の先輩たちは今年でラストだから、余計に寂しさがあるのかもしれない。
「北村さん! これ、倉庫までお願い!」
「あっ、はーい!」
近くにいた先生に声をかけられ、荷物を渡される。
まあ兎に角、早く片付けて家に帰りたい。
自分の任された片付けを終えて教室に向かうと、十知君とばったり遭遇した。
「あ、十知君。あっちゃん達知らない?」
「南さんですか…? うーん、すみません見てないですね」
「そっか、帰っちゃったかなー」
あっちゃんの机を見てみれば、カバンとかはない。げん君とゆう君の机にも荷物はない。うーん、やっぱり先に帰ったかな?
「じゃああたしも帰ろうかなー…。そういえば、今日学級委員はリレーでなかったんだね」
「はい……急に出ないことに決まりまして…」
本当は出たかったんですけどね、と彼は苦笑いで答える。
うーん、個人的には出ない方が良かったんじゃないかなって思うんだけど。十知君って、結構優しい性格だし、ああいうのには向いてない気がする…。気がするだけかもしれないけど。
「誰が出る予定だったの?」
「えっと、俺と、あとは4組の高忤さん、あとは3年の先輩方とかですかね…」
「先輩…?」
「分からないと思いますが…。2組の狗塚さんや4組の寅岡さんとか…」
うん…確かに、名前言われても分からない人ばかりなんだけども…。
それを察したのか十知君が苦笑いである。うん…ごめん…。
申し訳なさを感じつつ、対して何も入っていない鞄を手に持って、ふと、窓の方に目を移す。
「……ん?」
窓の方で見えた人影。
慌てて窓の方へ駆け寄り、勢いよく窓を開けた。
「あっちゃん!」
あたしが声をかければ、彼女はこちらを振り向いて、ニコリと笑みを浮かべた。夕焼けの逆光で分かりづらいけど。笑ったのが分かる。
なんだ、まだ外にいたのね。
ホッと安堵する。
「あれ、ゆう君とげん君は?」
窓を挟んでそう問えば、あっちゃんは何も返さず、そのまま歩き出した。
あれ、聞こえなかったかな。
けれど、あっちゃんはあたしとは真逆の方。グラウンドの外の方へ向かっていった。見てみると、あっちゃんの手には何も持たれていない。
「えっ!? っちょ待って!」
あたしは急いであっちゃんを追いかける。あっちゃんはグラウンドの出口の方に居て、あたしが近くにいれば、外に出る。離れず近づかずの距離感で、あたしたちは歩く。
どうしてだろう。あっちゃんはあんなに足が速かっただろうか。あたしとの身長差を考えれば、あたしは直ぐに追いつくはずなのに、全然追いつかない。
それに、
「あっちゃんどこ行くの!?」
ここはどこだろう。
サッと何かが、現れたような気がした。
後ろを振り返ってみるも、何もない…。
な、なんか怖くなってきた…!!
「あっちゃん、ちょっ、ちょっと待っ…!」
あたしが小走りで追いかけるも、彼女には追いつかない。
後ろで何かの声が聞こえたような気がしたけど、追いかけるのに必死で全然気付けなかった。
『引っかかった、引っかかった』
『簡単だったね』
『こんな簡単で良いのか』
『良いんだよ。あの人が望んだことだからね!』
******
急な出来事に十知が驚きつつも、すぐに戻ってくるだろうと座っていれば、声がする。
「もおお!! げんげんが手伝ってくれないから!」
「お前がさっさとやってればよかっただろうが」
クラスに優羽と源輝が戻り、十知がそちらの方を向き、彼の目が開かれる。その様子を見て、優羽が疑問げに首をかしげる。
「なんでそんな驚いてるの?」
優羽が疑問気にそう問いながらそういえば、
「酉海さんお帰りですか? あの、由希さんはどこに…」
彩鈴も彼に問うた。
「北村さんがどこにって…、さっき一緒に出て行きましたよね…? 南さんと」
十知が少し振るえながら彩鈴を指さし、さっき彼女が出て行った方を指差しながらそういう。
その言葉を聞き、一瞬何を言ってるのか理解できない表情だった彩鈴も、段々と状況を把握していき、その表情は焦りのものとなる。
「由希さん!!」
慌てて彩鈴が踵を返し、走り出す。
それに続き、優羽と源輝も慌てて走り出す。
「な、何なんだろう」
残されたクラスの十知は、頭にハテナを浮かべるばかりだった。
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