確かに此処に在り

 燭台で周りを照らしながら、コツコツと足音を響かせながら、あたしは足をすすめる。ここに置いてある本はどれも違うらしい。さっきから見ても、色が微妙に違っていたりして、同じものは全く見られない。
 あ、同じかも。そう思ってみても、本当に微妙に色が違って、表紙の文字も違うのだ。
 外国の本はこんなにあるのか。
 そう思いながら、もっと足をすすめる。

 しかし、どうもおかしい。

「先が見えない…」

 どれだけ進んでも、先が見えない。そろそろ終わりかな。そう思ってもまだ暗闇が続くだけ。いくらなんでも、もう学校の外に出たぐらいは歩いている。いくら時羽が広くても、こんなに長くない。

 ぞくりと再び背筋が凍った気がした。
 急に、恐怖感が出てきた。

 このまま進んだら、どうなってしまうのか…。もしかしたら、戻れなくなる…?

 後ろを振り返ってみれば、さっきまで歩いてきた道。高い本棚がずっと並んでいる。あたしは思わず足を止めた。

 どうしよう、なんでこんな怖いのだろう…。先が見えないって、こんなに怖いものなの…? そもそもここはどこ? 本当に現実の世界?

 思わず震えだした体を、片腕で抱きしめる。それでも震えは止まらない。
 どうしよう、こんなこと初めてだ。思わずギュッとまぶたを閉じた。

 怖い…っ!!









「紫恩ちゃん?」
「っ!?」

 急に名前を呼ばれて、勢いよくまぶたを開いた。そしてばっと後ろを振り向けば、黄蘭がいつも通りの間抜け面で、口に咥えていたのであろう飴を手に持ちながら、あたしを見ていた。

「どうしたの? こんな資料室で」
「資料室?」

 あたしが周りを見渡せば、何故か明るい部屋で、さっきまでの暗闇なんかなかったんじゃないかって、そう思わせる。
 そして手元を見れば、さっきまで持っていたはずの燭台も消えていた。

「なっ、え!?」

 あたしが慌てて足元や周りを見渡していると、黄蘭が心配そうに声をかけてくる。

「どうしたの? 紫恩ちゃん。紫恩ちゃんらしくない」
「だっ、だってここはさっきまで真っ暗闇で! 道がずっと続いてて…っ!」

 あたしがそう必死に説明していれば、黄蘭は一瞬悩むようにしてから、あぁと声を漏らす。

「さっきまで電気ついてなかったからね。ほら」

 そういって黄蘭が電気を消すと、いっきに真っ暗闇になった。

「ここさ、窓がないから明かりが入ってこないんだよね。だから暗闇が続いてるように見えるんだ」

 知らなかった?
 そう聞いた黄蘭の声は明るいというか、子供のようで、思わずポカンとしてしまう。
 だって、さっきまでのは……。

「紫恩ちゃん疲れてるんじゃない? 大丈夫?」

 黄蘭がまるで子供を宥めるように、あたしの頭を優しくなでる。
 その動作に思わずカッと顔が熱くなって、思わず黄蘭の鳩尾にぐーで殴った。黄蘭からごふっという声が聞こえたけど、気にしてられない。

 いや、だってさっきまでは…。

「……ん?」

 あたしがそう声を漏らせば、黄蘭はどうしたの? と問いてくる。それに気にせず、あたしは首をかしげた。

 あれ? 何してたんだっけ…?

 あたしがずっと悩んでいれば、本気で黄蘭が心配してきた。
 あーもう! こいつは一々真にうけすぎなのよ! こんなんでこの先生きてけるのかしら!
 思わずイライラしていれば、黄蘭に戻ろうかと言われて、あたしは首を縦に振った。黄蘭が扉を開き、あたしはそのあとに続いて部屋から出る。
 パタンと黄蘭が扉を閉めると同時に、あたしは後ろを振り向く。
 あれ、さっきまでこんな扉だったっけ…。さっきまでは…うぅん、やっぱり思い出せない。
 黄蘭がカチャリと鍵を閉めてあたしの方を向く。

「ここの資料室、鍵はボクが持ってるからね」

 いやあ、閉めるの忘れてた。そう言ってあははと黄蘭が笑う。何でこう気が抜けてるんだろう…。

「それで、資料室に何か用があったの?」
「あぁ、そうよ」

 本題を思い出した。本をおいておけと言われたんだったなあと思い出し、二人でその本を片付けることにした。

「で、紫恩ちゃん。テストはどう?」
「大丈夫よ」
「流石!」
「アンタに言われたくない」



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