希望になる

『それじゃあスタート』

 さっきの男性のであろう声が響き、合宿のSBが開始された。
 皆がバタバタしてる中、あたし達のグループはまだ動いてない。

「とりあえず、今回の指揮を君に頼んでもいいかな」
「俺が?」

 あたしのペアだった人が、げん君に笑みを浮かべながらそういう。げん君は少し驚いた表情をして、自分で自分を指さしていた。
 うん、確かにげん君なら仕切るのもうまそうだし、冷静だから上手い指示が出せそう。
 あたしがそう思っていれば、他の人も賛同していて、げん君は腕を組んで悩んでから、分かったと了承した。

「あまり期待はするなよ」
「良いって! そこは皆がフォローするだろうしさ」

 自分はしないんだ、と軽く遠い目で見ていれば、彼は小さく手を振って離れていった。

「お前、アイツとペアだったんだろ? どんな奴か知ってるか?」
「うーん…それがよく分からなくて…」
「……ま、何とかなるか」

 げん君はそういうと、他の人の方に向いた。

「おい、お前らは何ができる?」
「一応俺等は柔道とか剣道とかそういうのに入ってるから、そういう系なら…」
「成程な…」

 ふむ、とげん君は考えてからあたしの方を向いた。

「北村は能力使えるか?」
「……まだ、自信はない…」

 あたしが答えれば、そうかとげん君は言う。
 軽く顔を伏せていれば、軽く頭を撫でられ、びっくりして顔をあげそうになったが、少し力が込められているのか、顔が上がらなかった。

「それじゃあ、とりあえずここだと危ない。森の方へ移動しよう」

 げん君がそう言えば、皆で森の方へ向かう。げん君の能力を使わないのは、きっと疲れないようにするためだと思う。
 途中で別のグループ同士が戦っているとき、げん君は先にあたし達を行かせてから、自分が後から来るようにしていた。

「げん君は体力とか大丈夫なの?」
「何が」
「ほら、移動するときって体力使うんでしょ?」

 あたしがそう言えば、彼はああと小さく声をもらす。

「今この場で使うのは不向きだと思ったからだ」
「どういうこと?」
「この場所は俺達は詳しく知らない。そんな中、俺の能力で変な場所に着いたらどうする? しかもそこが敵陣だったら?」
「それは…もうやられに行くようなものだね…」
「だろ? そういうことだ」

 走りながらそんな会話をしていると、げん君は何かを感じたようで、あたしに一声をかけてから、少しだけ能力を使って、先頭の方に向かった。
 先頭の人に静止の声をかけ、彼はこっそりと先を覗いていた。皆でその場で待機していれば、げん君は再び能力を使って、あたしの方へ来た。

「どうかしたの?」
「この坂の下に、別のグループが居る」
「じゃあ、逃げる…?」

 あたしがそう言えば、げん君はさっきまで走ってきた方を見る。

「いや、駄目だな。さっきまで山道を走ってたせいか、俺達のは知ってきた道はまるわかりだ」

 小さく舌打ちをしてげん君は言う。
 確かに、山道だから地面に生えている草はそのまんま。つまり歩けばそこが道になってしまう。簡単に言えば、簡単にばれてしまうってことだ。
 げん君は少し考えた後、あたしの耳に顔を近づける。

「北村」
「うひぃっ!」

 思わず変な声が出てしまった。いや、だって耳打ちとか慣れてないから…! げん君を見れば、軽くあきれた表情をしている…くう! あなたの所為だというのに!
 軽く睨み付けていれば、赤い顔でにらまれても意味はないと言われる。くそおお!

「それよりも、協力してくれるか?」

 今度は少し距離を離れて、顔を見て言われる。
 協力ってことは、能力を使えってことだよね…。でも、あたしはまだ上手く使えてないし…。
 あたしが渋っていれば、彼は小さく溜息を吐く。

「お前が能力をつかえないのは、どこか引き止めてるところがあるのかもしれない」
「引き止める…?」
「お前、能力が使えたら普通じゃなくなるとか、いろいろ考えてるんじゃないのか?」

 ギクッとした気がした。
 あたしはそんなつもりはないと思っているかもしれない、けどそれは思い込みで、どこかではまだ普通でいたいと思い込んでいる自分が居る。
 能力が使えなかった今までの自分、それが普通だったのが急に異能になったのが、まだ受け入れてなかったようだ。

「良いか、能力が使え様が使えまいが、俺達は皆同じ人間だ。お前が生きてることが正論。普通なんだ」

 異能者と言われても、完璧に異能なわけなんかじゃない。忘れるな。
 げん君にそう言われ、あたしは少し吹っ切れたような気がする。あたしはあたしなんだよね…。能力が使えない前のあたしも、時羽に来て毎日過ごしたあたしも、普通なんだ。
 そうだよ、もう少しであたしは大切な友人や先輩達を否定するところだった。

「それに、まだお前はきっとイメージが掴めてないのかもしれない」
「イメージ…」
「俺の能力は、簡単に言えば座標だ。xとyのグラフのように位置を決めてやっている。優羽はイメージでどのような電気を使いたいかを」

 南は知らないけどな。
 げん君はそう言えば、真っ直ぐに向こうの方を見る。

「因みに、向こうに居たのは優羽と南のグループだ」

 そろそろ南が気づくかもな、そういうとげん君は立ち上がって他のメンバーに声をかける。

「俺達は先に仕掛ける。その後お前も来い」
「え、」
「少しは自分を信じてやれ」

 ふっと笑みを浮かべ、彼らはその場から姿を消した。すると、直ぐにゆう君の驚いたような声が響く。

「うわああああ! げんげん急に現れないでよ!」
「今は敵同士だろうが!」

 あたしは慌てて崖の方に向かう。そこから下を覗けば、グループの皆が頑張っている様子だった。
 あっちゃん達のグループには、もう一人能力が使える人がいたらしい。誰だか分からないけれど、木の枝を刀の様な物に変えていた。
 相手の右手が、げん君の方に向けられる。げん君は気づいてない。あのままだと、怪我をする…。大怪我をするかもしれない…。

――嫌だっ!!

 あたしが声にもならないように叫べば、ドンッという効果音とともに、相手とげん君の間に、白に近い光が落ちていた。
 皆の目線があたしの方に向く。

「北村…」
「由希さん」
「ゆっきー?」

 3人があたしの方を見て、目を丸くしている。
 鎌のように両手を包む白い光。自然と何も怖くない、見慣れた様な、そうでないような白を纏って戦う錯覚に陥ったあたしは、意外にも落ち着いてた。

「どうだ!」

 あたしがかるくドヤっとしてみれば、皆が笑みを浮かべた。

「よくやった」

 げん君のそんな笑みを見て、あたしも思わずへらっと笑みを浮かべられた。
 これがあたしの能力。ずっとこれから先共に生きていくもの。あたしの両手を包む光をみて、あたしはどこか吹っ切れた気がした。

 やっぱり、この合宿参加できてよかった。



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