踏み出せ、一歩!
「こんなんで…レベルアップとか…、あたしが強くなるなんて、無理だったのかなー…なんて」
「ゆっきー…」
「北村さん…」
ゆう君と十知君の、酷く哀しそうな声。
それに続いて溜息が聞こえて、やっぱりこんな弱音を吐いて呆れられてしまったかと、思わず唇を噛み締めたら、ぐいと誰かの手があたしの顎を持ち上げた。
「お前、ふざけてるのか…?」
目の前にあったのは少し怒っているように眉を顰めたげん君の顔で、その瞳とあたしの目があって、急に顔に熱がこもった気がした。
顎を持ち上げていたげん君の手が、ゆっくりと頬に滑っていく。ぎゃっ! は、恥ずかしいというか何というか!
「げ…った!」
名前を呼ぼうと思った瞬間、ペチンと軽く頬を叩かれた。
あまり痛みは感じなかったんだけど、思わず頬に手を添えてしまう。
「落ち着いたか?」
げん君がそう言った頃には、あっちゃんに軽く頬を撫でられて、けれどそのげん君の言葉で、確かに気分が落ち着いている事に気付いた。
「強くなるって、どういうことかわかるか?」
唐突にげん君が問うてくる。急なこともあってか、あたしは思わず首をかしげる。
「分からないか? じゃあ、少し難易度を下げて聞くが、お前が強いと思ってる人物は誰だ?」
げん君の問いに、あたしの頭にパッと浮かんできたのは、
「生活委員の先輩たち。それに、生徒会の人たち…」
あたしがそう言えば「じゃあ」と続けてげん君が言う。
「その人物たちの共通点は?」
「共通点……」
何だろう…。そう思って考えて、じゃあ逆に自分にないところは、と考えると…。あたしがうんうんと悩んでいれば、げん君がゆう君に「お前は何だと思う?」と聞く。ゆう君は少しビックリしてから、考える仕草をしてから口を開いた。
「自分と向き合っている、かな」
ゆう君のその答えに、ハッとする。
げん君は満足そうに正解と笑って(眉間のシワは取れてないけど)、視線をあたしに戻して言った。
「少なくともお前の言う強い人は、自分と向き合ってきた人達だ。それでもお前は、自分の足で合宿に来た。それだけでも少しは自分と向き合ったことになる。そういうのは、無駄にはなんねえよ」
その言葉は、げん君にしては珍しい優しい笑みと一緒に、あたしの胸にじわじわと温もりとして広がって、さっきまで胸の中に渦巻いていた暗い気持ちが徐々に消えていく。
あっちゃんやゆう君や十知君にも視線を向けると、3人も柔らかく微笑んでいて、大丈夫だと、この道でいいんだと、そう言ってくれているように見えて。
「だと…いいけど」
かっこ悪くても、這いつくばってあがくだけの日も、それでもムダにはならないと彼らが言ってくれるのなら。
信じて歩く。そう、心に誓った。
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