疾走する世界

 あっちゃん達と別れたあと、あたしは一人で自分の家に向かって歩いていた。
 とりあえず、明日学校に集合で、そこから皆で合宿のところに向かうそうだ。ゆう君とげん君は遅れていくみたいだけど、まぁ部活頑張ってほしいな。

 小さく笑みを浮かべてみる。すると、携帯がブブブッと震える。電源切り忘れてたのか…。危なかった、学校で鳴ったら没収されるところだった…。
 小さく息を吐きながら、メールの内容を確認する。どうやら送り主はお母さんで、早く帰ってくるようにとのこと。
 多分、店番を手伝えって事なんだろうなー…。小さく息を吐いてから、了解のメールを送り、携帯を閉じる。
 そこまで暗くないからか、人も結構歩いていて、同じ学校の制服、それと中等部の子達や初等部の子達も歩いている。グリコやってるのをみると、どうも懐かしい。フッと笑みがこぼれる。

 それと同時に、急に首筋が痺れるような感覚を覚えた。

「ん?」

 何だろう…。
 思わず首筋に手を当てる。けど何も傷もないし、腫れてるわけでもない。気のせいかな…。
 気にしないでそのまま帰ろうとしたその時、辺りを強い風が襲った。

「うわっ」

 急に吹いた風に、あたしは密かに顔を顰める。
 何だろう、急に。暫く吹いた風に、思わず顔を腕で覆い隠すように顔を伏せ、風がやんでから、ゆっくりと顔を上げた。

「あれ…」

 気付けば辺りに人混みの姿はなく、代わりに一人の人が立っていた。相手はフードを被っていて、よく顔は見えない。普通だったら、怖くて逃げ出すような雰囲気なのに、どこか恐怖心はあまりなくて、暫くお互い距離を置きながら向き合っていた。
 すると、相手は外套のフードが外し、顔がハッキリと見える。
 ゆっくりと、あたしの目が開かれる。

「あっちゃん…?」

 現れたのは、あっちゃんにそっくりの人。パッと見た感じだと、男か女か分からない。
 いや、あっちゃんより幾分が髪が長く、瞳はあっちゃんと同じ赤い瞳。
 それを見て、あたしは呟かずにはいられなかった。

 しかし、雰囲気は少し違う。すぐに思い直したけど、でも思わずそう思ってしまう。それだけ、目の前の人はあっちゃんと似てるのだ。
 相手はあっちゃんとは異なる笑みを浮かべたまま、あたしを見詰めて歩き出した。

「あれ、彩鈴は居ないのかな」

 声色もまだ幼く聞こえて、どうも性別を判断できない。

「君……」

 どういうことかと、歩みながら詰め寄ろうとした。
 が、すぐに息を飲んで歩みを止めてしまう。

 それは、紛れもない恐怖。

 急に怖くなって、足が止まってしまう。
 相手はそんなあたしなど気にしない様子で、あたしだけを見詰めている。

「残念だけど、迎えに行くには時期が早い。まだ全部揃ってないしね。でも、その様子を見ると彩鈴が元気そうで良かった。あの時はどうなるかと思ったけど――」

 相手はあたしの傍まで来て足を止めると、あたしの瞳を見て、緩やかに笑みを深めた。

「異能者として能力が使えて、どんな気分?」
「え?」

 思わず言葉が溢れる。
 何であたしが異能者って分かったんだろう。

「どう?」

 向こうがあたしに手を伸ばそうとしたのを見て、あたしは口を開いた。

「分かんない」

 その言葉を聞いて、相手は一瞬目を丸くしたけど、あたしに伸ばしていた手を下ろすと、相手はあたしを暫しじっと見詰めた。

「そっか…。また会うかもしれないね。じゃあね」

 相手はそう云って笑うと、外套の裾を揺らして手を振りながら歩き出した。
 あたしはぼーっとさっきの人の方を向いていたら、相手が来た時とは違い、ゆっくりとサウンドが大きくなるかのように、再び辺りに雑踏が現れる。

「何だったんだろう…」

 はっ! 時間!!

 バッと携帯で時間を確かめる。よ、よかった思った以上に時間は過ぎてない! てか全然過ぎてない! 良かった!
 あたしは急いで家に帰るために、走った。



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