前に進む勇気を
上から崩れてきた瓦礫が降ってくる。そしてそれに混じって…。
――ドォンッ
「いってえええ!!」
一人の男子が降ってきた……って、
「ゆう君!?」
「え? ゆっきー? って今はそれどころじゃないから!」
ゆう君はそう言うと体制を立て直して、急いで立ち上がる。そしてそのまま、あたしに背を向けて走り去った。
そしてそのまま、あとに続いて誰かが降りてきた。銀色に近い髪色の男の人。その人はあたしに目をチラリと向けてから、ゆう君を追いかけた。
「うぎゃあああ!!」
ゆう君が悲鳴を上げていると、途中でげん君が現れて、ゆう君を抱えてその場から消えた。
な、何があったんだろう…。
「全く、白夜には困ったものですね」
「全くだ」
続いて聞こえた声に、顔を上に向ける。するともう一人男の子が飛び降り、うまく着地をした。サラサラの黒髪に緑のカチューシャ。確か、竜峰青也君…。
「なになにー、先輩を無視して何の話ししてるの? 君たち」
彩兎先輩がガッとあたしの頭を掴みながら言った。痛い痛いっ!
痛みに悶絶していれば、武関君と竜峰君がこちらを向く。
そして、武関君は小さく笑みを浮かべてから、あたしたちの方を向いた。
「すみません。今日はこの辺で失礼しますね」
「は? こっちはやられっぱなしなんだよ? そんなホイホイ逃がすと思ってんの?」
彩兎先輩はそう言うと、輝先輩の能力である電撃を、武関君と竜峰君の方に向けて放つ。
しかし、二人は動じることもなく、それぞれが反対同士の腕を横に振り、それぞれの技を使って、電撃を相殺した。
見た感じ、竜峰君の能力は風、という感じだろうか。
「僕たちが逃げたほうが、助かるんじゃないですか?」
「……チッ」
彩兎先輩は舌打ちをし、焔真先輩も苦虫を噛み潰したような表情をする。
そのまま二人は背を向けて歩いていき、この場所にあたしたちだけが残った。
「そういえば、火燐先輩達は…!」
あっちゃんも、輝先輩もどうしたのか。
あたしがそう言えば、彩兎先輩が親指でさっきまで居た方向を指差す。すると、火燐先輩があっちゃんを抱え、輝先輩がその隣で走ってこちらに向かっていた。
「こっちはこっちで、四天王の一人と戦ってたんだよね」
「え…」
彩兎先輩は少し冷めた声色で、あたしを見下ろしながらそう言った。
「ねぇ、由希ちゃん。由希ちゃんは、自分は能力を上手く使えてると思ってる?」
「……いえ、思ってないです」
「じゃあ、特訓とかはしたのかな?」
「っ」
してる、とは言えない。
「図星?」
「けど、先週は色々あったし…」
「土日、休みがあったでしょ?」
正論だ。
いきなりのことで混乱してるから、と言い訳をつけて、何もやってなかった。うまく使えないからって、使ってなかった。初心者だからしょうがないって、逃げてた。
「そうやって何も出来ないくせに、無能なのに何も努力しないってのが、一番ムカつくんだよね。散々足引っ張って言い訳だけはご立派。敵にもみすみす逃げられる。ホント、邪魔なんだよね」
「彩兎!」
焔真先輩が声を上げる。
その時調度火燐先輩達が来て、先輩たちの目が開かれる。
「言いすぎだ。お前は一々弄れた言葉を並べるな」
「でも本当のことじゃない。焔真だってそう思ってるんじゃない?」
「正論は何を言ってもいいってわけじゃない。よく考えろ」
二人が睨みあう中、あたしは顔を上げることができなかった。上げたら、涙が出そうだった。
「な、なになにー? この雰囲気。ピリピリしちゃって」
「ん? 何でもないよ、火燐ちゃん」
あたしに向けた表情と違い、笑みを浮かべた彩兎先輩。そんな彩兎先輩を見て、焔真先輩がため息を吐き、口を開いた。
「火燐、お前たちはポイントは減ってないんだな?」
「うん、大丈夫よ。彩鈴ちゃんが頑張ってくれたからね」
そう焔真先輩が話を振ったら、皆の雰囲気も元に戻っていく。あたしは必死に涙をこらえ、顔を上げる。すると、あっちゃんと目が合ってしまった。
そして、思わず目をそらしてしまう。今、あっちゃんと目を合わせたら、弱ってるところを見られてしまいそうだ。
「取り敢えず、今日はね放送委員と手を組もうかなって。さっき1年の紅煉君がね、手助けしてくれてさ。それで早緑さんと話したんだけど、了承してくれたよ」
「早緑さんが居れば一安心かなー」
先輩たちの会話を聞きながら、あたしは何も出来なくて、その後、放送委員の人と一緒に戦って、何とか今日もビリを避けることができた。体育委員も今日は大丈夫だったみたい。
でも、あたしはずっと後ろで見ているだけだった。
何も出来ない、役立たず。
悔しい。今まで味わったことがない、この悔しさ。あたしは、どうすればいいの。
そんなの決まってる。
「努力しなきゃ」
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