前に進む勇気を

 氷柱が、蛍光灯の光でキラリと光る。それがまるで刃物を突きつけられているようで、恐怖でガタガタと体が震える。
 駄目だ、あたしなんかじゃ、何も出来ない。
 そんなのお構いなしに、彼はもう一度彼が氷柱を持つ腕を振り下ろしてくる。

 避けろ、動け、動け…!!

「っ!」

 ザクっと壁に刺さった音がする。あたしは何とか、ギリギリのところで横に転がるようにかわした。
 こ、怖かった…! 本当にあたしに刺さってしまうんじゃないかって…!

 あたしが半分涙目でいれば、彼は「ふぅん」とつぶやき、壁に刺さった氷柱を水に戻した。その水は音を立てて床に落ちる。

「最後のを避けたのは、褒めてあげるよ」

 取り敢えず逃げなきゃ、隠れなきゃ。
 そう思って立とうと思っても、ガクガクと震えた足と腕には力は入らない。引きずるように後ろへ下がれば、カツカツと音を出しながら、彼は歩く。

 そして彼は左手に氷で作った刀を持ち、あたしの前に突きつける。

「残念だったね。人間って、弱いものに集中するんだよ」

 そう言って彼が刀を振り上げる。氷の光の反射で、思わず目を瞑った。その瞬間、

ガキンッ

 と硬い物同士がぶつかった音がする。
 恐る恐る目を開ければ、目の前には武関君じゃなくて、彩兎先輩があたしに背を向けて立っていた。
 そんな彼の手には、武関君と同じような氷の刀。ギリギリとお互いに押し合って、意地にでも負けまいとしているのがわかる。

「由希ちゃん? 早く動いてくれないかな。そうでもしてくれないと、僕も動けないんだけれど」
「はっ! す、すみません!」

 あたしは勢い良く返事し、後ろに下がる。
 彼はそれを横目で見ながら、どのタイミングで下がろうかと考えているようだ。

「邪魔、しないでくださいよ…」
「これ以上ポイント削られるわけにも行かないんだよ」
「先輩だって同じようなことするでしょう」
「うわっ、生意気な後輩だなあ」

 二人でそんな会話をしていれば、先輩の氷が割れる。
 そのタイミングで先輩はジャンプで後退する。そして手に持ってた氷を見て、小さく舌打ちをしてから、壁に叩きつけて割った。
 先輩は立ち上がり、そのままあたしの前に立つ。

「君、前も由希ちゃん狙ってたよね。何、そういう趣味でもあるの?」

 どんな趣味ですか!
 そうツッコミそうになったけど、口を閉じてこらえる。
 そんなあたしたちとは反対に、武関君は肩を揺らして答える。

「まさか。ただ、この学園に転入し、それが能力者だった。なので少し興味を持って攻撃を仕掛けた、ら。前回のようになったので、面白そうだな、と」
「まさに僕の言った通りじゃんか」

 やっぱり、この学校に転入は珍しいらしい。彼の言う感じでは、転入してきたのは、私一人ということだろうか。
 そうなれば、気になるのも納得がいくかもしれない。

「それに、攻撃を仕掛けるのであれば、弱い相手を確実に倒す。誰だってそうでしょう?」

 グサッと刺さった。本日二度目。二度目の弱いもの宣言。これはキツいです…。

「そうだね。まあ彼女は弱いよ。だから、逆に使おうと思えば使えることもあるんじゃない?」
「は?」

 彩兎先輩の言葉に、武関君が訳が分からないように言葉を漏らした瞬間、彼の後ろから業火が迫ってきた。

 彼は目を開いて慌てて、彼の能力である水で炎を防いだ。
 それと同時に、あたしの前にもう一人の影ができる。

「焔真先輩」
「何だ、焔真か。火燐ちゃんだと思ったのに」

 残念、と彼が軽く笑いながらそういえば、焔真先輩は露骨に嫌そうに眉間に皺を寄せた。

「うるせえな。お前だと心配だからと、火燐が俺に頼んだんだ」
「別に大丈夫だし」
「そう思わせるような奴だからだろうが」

 二人の会話にポカンと口を開ける。
 何だろう、この二人ってやっぱり仲良くないのか…。でも、今はそれどころではないのでは…!

 そう思いながら武関君の方を向けば、彼は上を向いている。それにつられてあたしも上を向く。
 その瞬間、ドゴッと音がしたと同時に、天井が崩れてきた。

「なっ! さっきから何なの!?」

 そう思っていれば、彩兎先輩に脇で抱えられ、その場を動かされる。



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