前に進む勇気を






「ほらほら火燐! 避けないと危ないよ?」
「っ!」

 朱理の炎が私にめがけて向かってくる。私はそれを紙一重でかわした。
 その様子を見て、朱理は軽く口笛を吹く。

「流石火燐だね!」
「ありがとうございまーす」

 軽く言葉を伸ばしながらお礼を述べる。そして直ぐに、体制を整えた。
 どうして、急にあの時のことを思い出したんだろう。今はそれどころじゃないのに…。

 由希ちゃんが目の前で吹っ飛ばされたから? もしかしたらって、考えがあるから? だからこんなボーッとしてたの?
 駄目だ、私がこんなんじゃ、また誰か危ない目にあうかもしれない。

 首を横に振って、マイナスな思考を振り払う。

「火燐、大丈夫か?」
「だ、大丈夫!」

 輝に声をかけられ、しどろもどろだけど肯定の返事をする。

「今は目の前のことに集中しなきゃ…!」

 私がそういえば、輝も朱理の方に目をやる。
 朱理が笑みを見せた瞬間、


『生徒会の人とか居たりしますぅ――!?』

「――――っ!?」

 物凄い大きな声に、耳がキーンとなり、周りにいた皆して一斉に耳を手で塞いだ。
 その瞬間、周りに広がっていた炎が、あまりの大きい音の衝撃波(というよりは風に近くなってしまっている)で少し弱まった。
 急の出来事に私達が呆気にとられ、ポカンとした表情でいると、パリーンと漫画のように窓から人が飛び込んできた。

「ええええぇぇ!!??」

 輝が急の出来事に驚きで声を上げる。私も声が出そうになったが、輝が代わりにとでも言うように叫んでくれたので、何とか叫ばずに済んだ。
 彩鈴ちゃんも、声には出していなけど驚いた表情をしている。
 そして窓から飛び込んできた人は、スタッと着地して、彼の赤茶色の髪がさらりと揺れる。髪の毛で片目は隠れているけれど、口元を見れば笑っているのがわかる。

「おまっ、紅煉!?」
「紅煉?」

 輝が叫んだ言葉に、私が繰り返すようにつぶやく。
 あぁ、放送委員の一年生か。そして確か輝と同じ軽音部。生意気な1年として有名だった気がする。
 そう思っていれば、私たちに背を向けるように、彼が立つ。

「へへっ。奏架がね、ここに生徒会がいるって聞いてさ、すっ飛んできちゃった」
「ふーん、相変わらず怖い情報網だね」

 朱理はこの1年と、彼が言った奏架という人物を知っているようだ。
 けど、ここはチャンスかもしれない。この1年が朱理に声をかけているおかげで、向こうは私たちを気にしていない。

 周りを見渡してみれば、まだ炎で包まれている。どこか炎のないところを見つけて…。
 そう思って目をキョロキョロとしていれば、後ろから手を引っ張られる。

「火燐先輩」
「どうしたの? 彩鈴ちゃん」

 彩鈴ちゃんが口元に手を当てたので、私はそれに合わせるように軽くかがむ。そして手招きして輝を呼んだ。

「まだ上手く行く保証はありませんが、試したいことがあるんです」
「……」

 先日言ってた、合体技の事なんだろうか。
 私が使う炎を貸して、彩鈴ちゃんに指示を出させる。けど、今は少し難しいかもしれない。

「先日言っていた、私が指示を出すのではなく、火燐先輩に指示を出したいただきたいのです」
「私が?」

 でも、彩鈴ちゃんの能力は私たちには見えない。じゃあどうするのか。そう思っていれば、彩鈴ちゃんが引き締めた表情をする。

「大丈夫です。それを、使います」
「それ?」

 私が首を傾げれば、小さく息を吸って、吐く。

「まだ、大勢に見せることはできません。ですが、火燐先輩だけになら、出来ると思います」

 彩鈴ちゃんの真っ直ぐな目を見て、私は思わず息を呑む。
 けど直ぐにハッとして、首を縦に振った。

「分かった。やってみよう。」

 私がそういえば、輝も首を縦に振った。

「よし、じゃあ輝は構えて。すぐ行くよ。彩鈴ちゃんは私が抱えて行こう」

 そう言って、前を見る。

「行くよ」



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