はじめての落とし穴
げん君によれば、彼が4歳の頃。夜遅く、偶々夜更かししてテレビを見ていたらしい。親に早く寝ろとか言われていたけど、寝なかった。それが失敗だった、と言っている。
そして、丁度番組は妖怪系のモノになり、古い旅館みたいなところが舞台になったようで、そこに若い女性が必死に逃げていた。
そして、次の瞬間に、でかい化け猫が女性を…。
「……え?」
お、終わり? そう聞けば、彼はキッとあたしを睨みつけてきた。
「そうだわ! そんだけだよ! だから嫌なんだ人に説明することが! いっそバカにしろよ! ほらバカにしろよ!」
「………か、」
可愛い、なんて言ったら怒るだろうか。いや、怒るな。さらに怒って大変なことになりそうだな。
そう思っていれば、もう一度猫が鳴き、何時ものげん君からは考えられないような、か細い悲鳴を上げて、あたしの後ろに逃げた。
あたしの方が身長低いし、女子なのに。そう思うと少し可笑しいけど。
「大丈夫だよ。窓しまってるしさ」
あたしがそう言えば、彼はハッとしてあたしから離れた。
少し顔が赤い。そして早足で、歩く。
「な、鳴き声が嫌っつーか…」
「でも猫のストラップも嫌がってたよね」
犬は? 蛙は? 猫以外の動物は大丈夫なの?
そう聞いていけば、げん君が、猫だけだ! と叫んだ。そ、そっか。じゃあげん君の前で猫の話は禁止だね!
なんて言っていれば、げん君が方向転換して、さっきまで歩いていた方向に足を進める。
「どこ行くの?」
「自販機」
「じゃああたしも…」
「……奢る」
……え?
何で? と問えば、口止め料だ! と怒られた。そんな、奢ってもらわなくたって、誰にも言いやしないのに。
思わず笑みが溢れれば、何笑ってんだと怒られる。それに何でもないと答え、紙パックのジュースを奢ってもらった。
あ、あたし男子陣に奢ってもらいっぱなしだな。今度、代わりに何か買ってあげようか。
そして、二人で教室に向かえば、ゆう君とあっちゃんが未だに弁当を開かずに待っていてくれた。
「遅かったねー。そんなに購買混んでた?」
「う、うん。まぁね」
軽く笑みを見せて、あっちゃんの隣に腰掛ける。そして、あたしの前にげん君が腰掛けた。
「げんげんは結局何処に居たの?」
ゆう君がパックのジュースを飲みながら、あたしに聞いてくる。あたしがチラリとげん君を見れば、口パクで「言うな」と言ってきた。
あたしはブフッと軽く吹き出し、自販機の前、と答える。
「えー、何で吹き出すのー。意味分かんないんだけどー」
「お前は分かんなくていいんだよ」
「ひっでー」
そう言いながら、ゆう君はげん君が開けたジュースを一口貰っていた。
あたしがメロンパンを口に含めば、あっちゃんに話しかけられる。
「何か、嬉しいことでもありました?」
柔らかく笑みを浮かべ、聞かれたので、思わずあたしも笑みが浮かぶ。
「まぁね」
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