はじめての落とし穴
午前中の授業の無事に全て終わり、お昼の時間です。
もうあれ以降、4人で食べるのが定番になっていた。机を借りて、くっつけて、4人で食べる。
ふとカバンを漁っていると、お昼ご飯がない。わ、忘れてきた…! 急いで財布を取り出し、あっちゃんとゆう君に購買に行ってくると伝える。少し二人っきりにさせて不安だけどしょうがない。
ゆう君にげん君を探してくるようにも頼まれて、首を縦に振った。
購買に行けば、そこはもう戦争だ。一瞬死を覚悟したが、首を横に振ってその思考を捨てる。よし、取り敢えず目標はメロンパンとカレーパン! 急いで購買の人ごみの中に潜り込んだ。
「ふぅ、買えた…」
何とか目的の品は手に入れることができた。この二つ人気だからなぁ、直ぐに売り切れると思ったけど、何とか残ってて良かった。
軽く鼻歌を歌って歩いていれば、一瞬何かが視界に入り、確かめるために、足を止めてバックした。
「あれ、げん君」
窓の向こうを見ているげん君に声を掛ければ、げん君は少し大げさ気味に肩を大きく揺らす。そしてあたしの方に振り向いた。あたしが彼の方に近寄れば、彼はあたしの方を向く。
「何見てたの?」
「あ? い、いや何も…!」
そうげん君が言ってる間に、あたしは窓まで近寄り覗いてみる。
「あーっ、猫だ!」
子猫もいる! 親子かな。可愛いなぁ。学校の中に猫って紛れ込むんだ。あ、でも中学の時にも紛れ込んできたこともあったから、ありえる話ではあるのか。でもこの学校にはないと思ってた。
まぁ兎に角げん君に、かわいいねー、と言ってみれば、しどろもどろに肯定してきた。
「可愛いよね、猫。あたしげん君は猫苦手なんだと思ってた」
ピシリ、という音が適切であろうか。彼は珍しく眉間の皺がないまま笑みを浮かべ、固まった。
実は、今朝ゆう君が腕を振り上げたとき、猫のキーホルダーがピョコンと跳ねたのだ。げん君はゆう君の腕じゃなくて、その猫を見て驚いていたから、もしかしたら嫌いなのかと思ったんだけど…。
あたしがそう言えば、彼は目を泳がせながら、そんなわけないと答える。その瞬間…。
ニャーッ
「うおぁぁ! って違ぁぁう!」
悲鳴を上げたかと思えば、バンッと勢い良く壁を殴っている。何か今日のげん君忙しないなぁ。
「猫嫌いなの?」
「ちげぇ! ちげぇよ!」
そんな必死に弁解しようとしなくたって…。
「な、なんで隠すの? 苦手なものは誰にでもあると思うけど…」
「苦手じゃねぇよ!」
「な、内緒に…してるの…?」
「だ、ちがっ…あー、畜生」
げん君はそう言うとあたしの腕を引っ張った。
お、お、お…?
あたしが少し混乱していれば、あたしを壁側に立たせて、げん君は眉間の皺をいつも以上に濃くして、腕を組みながら睨んできた。
しかし、どこか余裕は無さげだった。
「誰かに言ったか?」
「え? ううん? 本当に苦手だとは思ってなかったし…」
あたしが答えれば、げん君がゆう君に言ってないだろうな、と言ってきた。も、勿論と首を縦に振る。
すると、げん君にしては珍しく、ボソボソと口を開く。
「い、言わないでくれ…」
「うん…」
「お前馬鹿にしてんだろ」
「し、してないよ!」
誤解だ! 冤罪だ!
そう思いつつ、なんで苦手なのかと聞いてみるが、向こうは口を開こうとしない。じゃあ、とあたしは自分の苦手な幽霊の話をした。小さい頃にリアルにそう言う経験をしたから、余計怖くなったのだ。本当にそうなのかは分からないけどね。
なんて言ってみれば、向こうは未だに視線を合わそうとしない。
ち、小さい頃に引っ掻かれたとか?
そう聞いても、近づいたことすらないと言う。じゃあ何でだろう。
「関係ないだろ」
「え、あ、えっと…教えて欲しいなぁーなーんて」
軽く目を泳がせながら言うと、げん君は渋々と口を開いた。
「良いけどな、絶対優羽には言うなよ」
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