もっとずっと単純なことだよ

 そんなわけで、一階にある自販機まで向かう。ついでにと、げん君にお茶を買ってきてと頼まれた。さっき野菜ジュースを机の上に置いてなかったっけか。ぱたぱたと上履きが階段を降りる度に鳴って、擦れ違う名も知らない先輩たちがちらりと視線を寄越す。それに少し肩幅を狭くしつつ、自販機に向かって歩いていく。

 さっきまでのげん君の顔を思い出す。こればかりは気にするなというほうが難しい。さっきまで彼の表情が目についてしまうし、一度気にすると意識して見てしまう。人間の悪い癖だ。気にするなと言われると気になってしまう、見ないようにしていると逆に目線がいってしまう。

 はたから見ると西野君とげん君は正反対な性格だ。それでも尚一緒にいるということは、きっと正反対だからこそ通じるものがあるんだと思う。男の子って、そこらへん女の子と違うからたまにすごく羨ましくなる。

 集団で固まってグループを作ろうとする女の子は、たまにすごく面倒臭いと感じてしまう。どこかしらのグループに属さないと、もうほとんどそのクラスで過ごす一年間は地獄のように思えるだろう。属したとしても、なにか気に入らないことがあれば簡単にその輪から外されてしまう。女の子って面倒臭い生き物だ。それに対して、男の友情は本当に羨ましい。中学の頃にも、やっぱりそういうことはあった。あたしは外されることはなかったけど、露骨に外されているような子だっていた。
 でも、そうやって考えると、この学校の生徒は、皆真っ直ぐな感じがする。気のせいかな。

「あ、ゆっきー」

 そんなことを考えながら自販機に向かえば、西野君の声。一人? と声をかけられて、首を縦に振る。彼はそんなあたしを見て、笑みを見せてあたしに駆け寄ってきた。

「そうだ、ゆっきー紅茶って飲める?」
「え、まぁ飲めるよ?」
「じゃあこれあげる。間違えて押しちゃったんだけど俺甘いのそんな好きじゃ無いし、げんげんにあげると怒られるし」

 ぽんと手のひらに乗せられた紙パック。正式にはミルクティーだ。反射的に顔を上げれば、西野君の手には買い直しただろうココアがある。じ、実はミルクティー好きなんだよね…。

「あ、ありがとう。えっと、」

 お金お金、そう思って慌てて財布を開く。ミルクティーっていくらだったっけ。確認しようと思えば、そんなのいらないと言われてしまう。ああでも、そういうわけにもいかない。

「いやいや、本当に要らないって。女の子から金取れないよ」
「でも、」

 あたしがそう言えば、彼は少し視線を斜め上の方に向ける。軽く頬をぽりっと掻いて、口を開く。

「ぶっちゃけ、この間、変に喧嘩をふっかけちゃったお詫び」
「喧嘩って…」

 そんな大した物ではないだろう。そう思いつつも、彼はあたしに紅茶を押し付ける。少し唸っていれば、彼はへらっと笑みを浮かべた。

「まあ、正直に言えば、嫌われてることへの修正を含めて、なんだけど」

 嫌ってなんか、ないけど。いや、面と向かって言えないから、そうだと認めている自分も居るのかもしれない。いや、けど。
 あたしはチラリと彼の手に持ってるココアに目をやる。甘いものが嫌いなら、ココアも飲めないだろうに。それって、あたしに渡そうとした口実を作るため、なんだろう。そう思うと思わず口が緩んだ。

「じゃあ、遠慮なく貰うね、ゆう君」
「え、あ、うん…。良かった!」

 ゆう君はそう言うと、人当たりの良さそうな笑みを見せた。
 お礼を要らないと言うのならせめて、せめてものお礼に次もしあっちゃんの事で揉めても、変に当たらないことを心掛けよう。くれぐれも嫌いと誤解を招くような態度をとる、なんてことはもうしないようにしよう。




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