鍵を握っていくもの

 そんなあたし達とは裏腹に、目の前の人は、相変わらずの笑みを浮かべていた。そして、あたしの目を見て、問いてきた。

「ねぇ、君の名前は?」
「あたし? …ですか?」

 ふとスカートの裾、シャツの襟を見て、先輩であるのを確認した。よくよく考えれば、今日生徒会長に呼ばれていたような気がする。この明るい、オレンジに近い茶色の髪は、見覚えがあった。

「あたしは、北村由希です…」
「そっか! じゃあ由希で良いかな?」
「は、はい?」

 そう言って、朱理さんはニコニコと笑みを見せながら、しゃがみこむ。あ、ちょっ、スカー…ト…。短パンはいてた。良かった。
 あたしの心配をよそに、朱理さんは口を開いた。

「ねぇ、今日一緒に行動してた子、居るでしょ?」
「え?」

 パッと頭に浮かんだのは、あっちゃん。そしてその考えを促すかのように、背の小さい女の子、と言われ、もう彼女しか頭に浮かばない。

「あっちゃん…彩鈴ちゃんのことですか?」
「あっちゃん? そう呼んでるの? まぁ、そうだね。彼女だよ」

 あっちゃんが、どうかしたのかな…。そう思っていれば、彼女はニッと笑みを見せた。

「いや、あの子が人と一緒にいるなんて、珍しいなぁって…」
「あっちゃんのこと、知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、私と彼女、従姉妹なんだ」
「……え?」

 えぇ!!??

 あたしが驚いて、声を上げれば、朱理さんは爆笑している。あっちゃんと朱理さんが、従姉妹…。まぁ、よく見れば…。瞳の色合いとか、微かに似ている気がしなくも、ない…かも? どっちも赤系で、朱理さんはオレンジ色に近いけれど。
 けれど、朱理さんはあたしの目を見てくる。その目は真剣だ。

「彩鈴の能力知ってるよね?」
「はい…。」
「だから、あの子はあまり人と関わろうとしなかったんだけど…」

 良かった。そう言って、さっきまでの真剣な瞳とは打って変わり、人当たりのいい笑みを浮かべた彼女は、本当にあっちゃんを大切にしているんだなって、伝わってくる。
 あたしが思わず照れて、頬を軽く掻いていると、放送がなる事前特有の、ジジっという音が鳴る。


――ピンポンパンポン


 また気の抜けるチャイムだな。なんて思っていれば、会長さんの声が聞こえる。

「はいー、どうもどうもー。さて、今日のSBはここまで。皆、新しいメンバーとのバトルはどうだった? まぁ同じ人もいると思うけれど。まぁ兎に角、今回ビリッケツだったのは、体育員だから、修復頑張ってね」

 そう言うと、ブツンと切られた。体育委員って、西野君とげん君だよね…。あの二人負けたんだ…。軽く哀れに思っていると、朱理さんが立ち上がり、腕を上にあげ、体を伸ばす。

「ふ、おぁー! ふー…さて、部活に行こうかな。あ、由希またね! 火燐もまた明日!」

 そう言って、朱理さんは手を振って去っていったので、あたし達もつられて手を振った。
 そう言えば、朱理さん部活行くとか言ってるけど、部活ってもうやってないんじゃ? 自主練にでも行くのだろうか…。

「嵐のようにやってきて、嵐のように去っていったね」
「そうだね…。まぁ、これで大体は内容掴めたかな?」

 火燐先輩に話題を振られて、あたしは思わず首を縦に振る。すると、先輩は笑みを浮かべて、焔真先輩達と合流しようと言ってきた。それに頷き、あたし達は屋上を後にした。



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