やわらかなつぼみ

「ダメです」
「え?」
「え?」

 思わず彼と声がかぶった。凛として答えた表情の彼女は、言葉を続ける。

「貴方が私のことが好きだといって、なぜ私が貴方のモノにならなければならないのですか? 私は物ではありませんし、対して親しくもない女性に気安く触れる男性は苦手です。貴方が何を考えているか私には分かりませんが、先ずは筋を通してください。話はそれからです」

 彼女はそう言うと、ふわりと彼から飛び降りた。それはもう身軽に。

「それと、名前を知らない相手に言われても困ります。先ずは自己紹介からしてください」

 お…



 男前……!
 キリッとした表情で告げる彼女は、とても男前でした。そこら辺の男はヘでもないくらいに。
 きゃあきゃあと周りの女の子も声を上げる。
 さっきまであっちゃんを抱えていた彼は、少し驚きとショックを受けた顔をして、暫くしてからハッとして、あーとかうーんとかうなってから、分かったと言い、彼女の目線に合うようにしゃがみこんだ。


「えっと、俺は西野優羽です。急に抱っこしてしまってごめんなさい。アリスちゃんの事は前から知っていました。かわいいから好きです。だから仲良くして欲しいです」

 それと、そう言って彼はポケットから飴を出して、あっちゃんに差し出すように腕を伸ばした。

「これ、さっきのお詫びです。ごめんね?」

 首を傾げ、彼がそう言うと、あっちゃんは彼の手に腕を伸ばし、飴を受け取った。

「…ありがとうございます。これから仲良くしましょう。西野さん」

 あっちゃんがそう言えば、彼は軽く目を開いて一瞬驚いた表情をしたが、直ぐに笑みを見せた。

「うん。ありがとう」

 一段落着いたと思ったところで、あたしは急いであっちゃんの方へ駆けつける。
 大丈夫かと問えば、彼女は肯定してくれたので、取り敢えず一安心だ。

 キッと彼を睨みつければ、彼も軽く睨みつけてきた。

 しばらく、軽く睨み合っていれば、ガラリと教室の扉が開く。

「優羽、てめぇ人にカバンを押し付けといて、何やってんだ!」
「え、げんげん! ご、ごめ…ぶふっ!」

 身長の高めの男の子が教室に入ってきたかと思えば、行き成り西野君に彼のであろう、リュックを投げつけた。因みに顔面打。痛そうだ…。
 西野君は顔を軽く撫でながら、酷いとか色々言っていた。うん、そこは同情する。

「痛いよげんげん。少し事情があって…」
「人に預けといて何やってんだ。人に迷惑かけてるだけじゃねーのか」
「ひ、酷!」
「うっせーな、事実だろーが」

 さっきまで穏やかに過ごせそうとか言っていた、数分前のあたしへ。どうやらそれは無理そうです。




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