やわらかなつぼみ

「あっちゃん! おはよう!」
「おはようございます。由希さん」

 あたしが大きく手を振りながら声を掛ければ、彼女は振り向いて笑みを見せて答えてくれた。高校になって、あたしには大好きな友達が出来た。それが彼女、南彩鈴ちゃん。あたしはあっちゃんと呼んでいる。
 まだみずみずしい出会いはきっと運命だったと思う。あの時彼女と出会えていなければ、あたしは一人寂しくこの学校生活を過ごすことになったんだろうな。うん、自分で考えて悲しくなった。


「今日って入学式ないって聞いたんだけれど…」
「はい、ここはエスカレーター式ですから、高等部は始業式のみなんです」

 中等部と初等部は有るらしい。それはその時期に入ろうとする、成程…。
 それで、これから高等部はクラス表を見て、自分のクラスへ行き、始業式が行われる、と。
 転入してきたあたしにとっては、結構助かったかもしれない。

 そして学校に着くまでは、時羽学園のことを色々教えてくれて、とても助かった。


「凄い賑わってるね…」
「クラス分けですからね…」

 とても賑わっている中を、他の子達より頭一個分くらい大きい私が覗き込む。

「わ、あの子大きいー」
「あんな子居たっけ…」

 周りからそんな声が聞こえてきて、そして視線もあたしの方へ向かってくる。
 あぁ、やだなぁ…。あたしだって望んでこんなに大きくなったわけではないのに…。
 あたしが少し顔を下げたのがわかったのか、あっちゃんがあたしの手をギュッと握ってくれた。温かい手にお思わず涙が出そうになる。

「由希さんはその身長だから、素敵なんですよ。由希さんは由希さんです。私はその身長の由希さんが好きです」
「あっちゃん…!」

 この子は本当に優しい。思わずギュッと抱きしめてしまう。
 ありがとうと呟けば、彼女は「いえ」と答えて、ゆっくりと離れる。

 さて、クラス表を見ないとね。

「えっと、あたしは…。」

 北村で、カ行だから上の方にあるはず。見ていけば、1組のところにあたしの名前が。

「すみません、私の分も見てくれませんか?」

 身長的に厳しそうなあっちゃんが、申し訳なさそうにあたしに言ってくる。
 いやいや、寧ろ役に立てることなら何でも致します!
 任せて! とドンと胸を叩き、もう一度クラス表を見る。んーと、南彩鈴…。うーんと…。
 あ、あった!

「あっちゃん! 同じ1組だよ!」
「本当ですか? ありがとうございます」
「えへへ、嬉しいな…」

 あたしだけかもしれないけれど。一人で照れてみれば、彼女はふわりと笑みを見せる。

「私も嬉しいです。これからも宜しくお願いしますね」

 そう言ってくれた瞬間、あたしの周りにぱぁと周りに花が咲いたような気がする。うん、気のせいではないかもしれない。
 ギュッと手を握って、こっちこそ宜しく! そう言って手を縦に大きく振った。

 やったぁ、あっちゃんと同じクラス。それだけで、とても嬉しい気分だ。

 直ぐに行かないとここも混んでくるということで、あたし達は急いで1年1組に向かった。


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