あでやかな紅に爪を染め
のそのそと生徒会室を目指して歩く。なんでこんな短時間の間に、2回も先生に、しかも同じ先生にパシられなければならないんだろう…。謎すぎるわ。
廊下に私だけの足音が響く。
テスト期間だから、いつもなら聞こえる吹奏楽の演奏や、運動部の掛け声などは聞こえるわけもなく、まるで学校にあたしだけが取り残されたかのような気分だ。
ここで学校が夕闇とか暗闇だったら、恐怖心でいっぱいだったんだろうな。なんて、少し前の出来事を思い出しながら思う。
そういえば、前は真っ暗のなか、学校に来たんだっけ。その時は会長さんが残ってて…。会長さんって、いつもあんな時間まで残ってるのかな。すごいな。
しばらく歩けば、生徒会室の前に着いた。
荷物を片手で抱えるように持ってから、扉をトントンとノックする。
「すみません。北村ですけど…。会長さんいますかー?」
ノックしてから中に問うけど、中はシンと静まり返っている。
あれ、まだ来てないのかな…。確か、今日は絶対に大丈夫だからって言ってたような気がするんだけれど…。
まあ、会長さんは忙しいのだろうからしょうがないのかもだけど。
小さく苦笑いを浮かべながら、ドアを開けようと手を伸ばした。
「……」
手を伸ばしたのはいいんだけど、扉を開けれなかった。
いや、正しく言えば、体が、思考が、開けるなと言っているように思えた。
あたしの第六感がそう告げている気がする。
いや、決して笑いを取ろうとかそう考えてるわけじゃなくて。漫画の見すぎとかそういうわけじゃなくて…。
なんか、でも何故か分かんないんだけど…。謎の恐怖心があったのだ。
少し戻した手を、再び扉に伸ばす。
少し引いてみると、それは小さく音を立てて横に動いた。
鍵は開いている。
どくんどくんと心臓がうるさい。
なんでだろう。どうしてこんなに心臓がうるさいんだろう。
一気に口の中が渇いたような気になる。ヒュッと息を吸う音がして、それは自分から出たんだと、少し実感がわかないまま、そのまま勢いよく扉を横に引いた。
その瞬間、
「――っ」
ブワッと何かが勢いよく飛び出してきた。
急な出来事によって、目を思わず閉じる。何かが分からないけれど、自分に向かってくるんじゃないかと思ったんだけど、その衝撃が一向に来ない。
あたしはそっと目を開けば、何もなかった。
バッと周りを見渡しても、飛び出してきたと思われるものが見当たらない。
なんだったんだろう…。風…だったのかな。
いや、風みたいな包むような感じじゃなかった。
なんというか、ドス黒いというか…禍々しいというか。こういう体験したことないから、なんと説明すればいいのかわからないけど。
でも、何もないならいいんだ。
そっと、生徒会室の方に視線を戻す。鍵が開いているなら、会長も居るということなのだろう。
「会長。北村です。今日約束してた…」
先生から預かった荷物を抱えながら中に入る。
小さく足音を響かせて、中に入ってみる。そういえば生徒会室って初めて入るかもしれない。
へえ、大きな本棚があるんだなあ。他にも机とか色々…。なんというか、ほかの部屋より大きく見える。あと、なんかテーブルみたいなのとソファーが置いてある。なんか中学の時の校長室を思い出した。
キョロキョロと周りを見渡して足を進めれば、パシャッと足元で音がした。
なんか、水たまりを踏んだかのような…。
チラリと下を見てみる。
最初はなんだろうという感じだったけど、それが何なのかわかってきた瞬間、どんどん自分の体から血の気が引いていくのがわかったような気がした。
さっきとは比べ物にもならない恐怖心が自分を襲う。
自分の足元に広がるそれから、嗅いだことのないような匂いがする。
あぁ、こういうのを鉄臭いというのだろうか。
なんて、そう思った瞬間、視界の端に見覚えのある色が見えた気がした。
見るな。見るな見るな見るな見るな。
体が、本能がそう告げている。
これを見れば、自分はどうなる。
そう問いかけてきているような気分だ。
けれど、でも、見なければならない。あたしの思考はそう告げていた。
これまでもスローモーションのようだったけど、この動作は一瞬のはずだったのに、長い時間をかけたような気分だ。
あたしの視界の中に捉えたのは、あたしと同じ、それ以上に鮮やかな金色。それと、赤くなっていく見覚えのある制服と黄色いカーディガン。
「会長さんっ!!!」
あたしは手元の資料を投げ捨てて、転がるかのような勢いで駆け寄った。
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