愛してほしかったの

 “愛の断罪所”っていうのはね、昔の人が書いた本の題名なんだ。

 この物語は、昔に書かれた本だから…。周りの雰囲気とか、そういうのが当時の様子をよく表しているんだ。
 主人公はとある女の子。その子は小さな村に住む一人娘なんだ。確か、名前は純恋(すみれ)だったかな…。

 彼女の家系は村を統べるリーダー的な地位なんだ。だけれど、彼女はそれがあまり好きじゃないらしくて、色々とやんちゃをしていた。
 そんな彼女に付き合わされる立場にいたのが、イーオンという外人。彼は昔助けてくれた純恋のことが好きでね。なんだかんだでそんな関係が好きだった。


 ある日、彼女は村から少し離れている山に向かっていたんだ。彼女には少し病弱な母がいて、寝込んでしまった母のために、栄養のあるものを食べさせようと、山で動物の肉を獲りに行こうとした。当然周りは止めるけど、彼女はそれをやめない。

 けれど、彼女はその狩りの最中、とても綺麗な男に怪我をさせてしまう。彼は後に彼女の夫となる人で、名はゼノ。彼もまた、綺麗な容姿の外人だった。
 ゼノに一目惚れした彼女は、彼を家に招き、母親に紹介してから手厚く介抱する。


 母親がほったらかしにされて、母親の病状が悪化するのかと思われるんだけれど…。不思議なことに母親の病状は悪くならない。
 むしろ今まで以上に体が動かせ、純恋と一緒に家事を行うこともできるようになったり、逆に体調が良くなったり。村に手を貸したりして、村も活気が良くなったり栄えてくる。

 物語の中盤ではゼノは一度何者かに襲われて迫害されるんだけれど、すぐに純恋が取り戻しに行く。
 彼女のたくましさや強さに、読者はかなり惹かれるんだよね。
 まあそれは置いておいて、純恋とゼノの愛は深まるわけさ。イーオンは悲しんだけれど、でも彼女の幸せならと見守っていた。


 純恋はゼノの容姿などから、神のように思えたんだろうね。尚更彼を溺愛する。彼も純恋を愛し、二人の幸せや村の繁栄は絶頂を迎えた。



――が……。



 ある日突然、純恋が村を荒らし始める。畑を耕すための道具は血に濡れ、滴り落ち、水が綺麗だった池は赤く染まった。
 村の民は怒り、混乱し、その村に押しかける。

 その頃には純恋とゼノは村長になっていたんだ。だから、2人の元に沢山の人々が押しかけた。

「どうしたんだ」
「どうしてこんなことを」
「ふざけるな」

 純恋達に皆は叫ぶ。けれど、彼女たちは村人の前に顔を出さない。
 民の意見を聞いていたイーオンは、こう言った。


「私の愛しい愛しい罪人。あの時あのままで居てくれたら…あるいは…」

 イーオンは村人の前に立ち、こう言った。

「いいでしょう、民よ。ならば罪は私が断ちましょう。さあ、縄を用意して……」


 イーオンは――
 広場へ皆を集め、縄を純恋の首にかける。

 その時、彼は純恋の額、瞼、頬、そして唇にキスをするんだ。
 純恋は必然的に目を伏せる。その時、彼は彼女の首を吊る。


 そして――


 刺した。
 寂れたような刀で、何度も刺して殺したんだ。

「“愛してた”」

 何度も刺しながら何度も呟いた。その声は周りには聞こえていなかったけれど、皆の顔に血がかかるほど、爽快にね……。




「ゼノは最初純恋にかくまってもらってて、そのまま逃げ切るかと思ったんだけど、最後にはイーオンが見つけて一騎打ち。
 結局ゼノはイーオンに敗れ、この世を去る…。後に、悪の立場となったその夫婦を倒したイーオンは村の英雄となり、村の頂点に立ちその村は栄えていく…っていう展開なんだけど、ここからは嘘っぽいね」
「はあ。どろどろですね…。嫌いではありませんが…なぜその本が有名に?」

 俺はスマフォを使って、愛の断罪所について調べてみる。

「……最初はこの本が出版されていた当時は、すごい批判があったらしいよ。出任せだとか、評判下げるなとか」

 そりゃあ自分のところの村の名前が出たりしたら、嫌にもなるよね。こうドロドロな話を書かれたら。

「けれど、つい最近なのかな? ネットでその本についてのコメントが書かれたんだ。それを見てから、皆が変わったらしい」


“素晴らしいね。あながち間違っていない。イーオンは純恋の命を奪ったんだ”


「それ以来、皆がこれを書き込んだのは誰なのか。嘘じゃないかとかデマだろうとか、色々噂が流れてね。一躍有名になったんだ」
「成程……」

 個人的にはワクワクしてて好きなんだけど。しかも、この物語の舞台はグレアらしい。日本とグレアの関係はとても深く、大きな戦争はなく、平和的に、友好的に今の関係へとなったんだけど。

「舞台になったところに行ってみたいけどね」
「私は、少し怖い気がしますけれどね…」
「あー確かに」

 思わず苦笑いを浮かべる。
 まあ、今はテストに集中しようか。そう言って、俺たちはげんげんが座っていた机の方に向かった。


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