ぶくぶくあぶく

 だって、能力って、あたしはついこの間分かったって感じで…。

「君はいつから能力が使えるようになったの?」
「つ、ついこの間……」
「ふうん……」

 大体の人は生まれた時から分かるか、もしくは小さい頃に分かる。
 けれど、あたしはこの高校に入学する理由も分からなかった。今思えば不自然だ。お母さんは、どうしてあたしが異能者だって分かったんだ。
 確かに、小さい頃に高いところから落ちて、無傷だったこともある。けれど、だったらなんでその時に入学しなかったんだろう。ここまで時間を空けた理由は?

 一人で難しい顔をしていたのだろう、実君が大丈夫? と聞いてきた。

「あ、うん…大丈夫……」
「能力って、未だに明かされてないこととか多くてさ。その所為で色々と狙われたりもするようだし」
「狙われる…」
「あまり公にはなってないけれど、年に数回あるらしい。異能者の子供が誘拐されるって事件が」
「ふうん……」

 誘拐か……。

「その子供たちは?」
「未だに帰ってきてないらしい。もう10年以上経った事例もあるよ」
「そうなんだ…」

 もう人ごとではないのかもしれない…。
 現に、皆は対面しているのかもしれないし…。あの時のあっちゃんを見ると、あっちゃんはあれが初めてって訳ではなさそうだ。
 今思うと、あの時のあっちゃんは、あの黒尽くめって感じの男を、見たことがあるような…。ということは、これからはもう会わない、とは限らないのかもしれない。

 それに、あたしは戦闘科に入った。ということは、これから先は皆を守るポジションになるのだろうな。あっちゃんやげん君やゆう君。それに先輩たちや、友達も…。皆を守る。

 そういうところに入ったんだ。

「そうだ……もう一つ聞きたい事が……」
「ん? なに?」

 あたしは、ポツリとつぶやいた。

「……あたし、昔の記憶がないみたい……」
「……」
「あ、今までは全然気にしてなかったの! 友達と接してる時とか、そういう時に何も問題起きなくて…だから、気にしてなかったんだけど…」

 違和感を感じたのは体育祭だ。中学の時のことを思い出せない。ついこの間のことなのにだ。
 ううん、ちがう。正しくは中学に上がる前。その時の記憶がないんだ。
 今住んでいる家も、昔来たことがあるってお母さんが言っていたけど、その記憶はない。
 その体育祭で違和感を感じてから、少し今までの疑問も、その違和感のせいなんだって分かった。

「だから、その昔のこと思い出せたら、ちょっとはスッキリするかなーって…」
「……成程ね」

 それなら、適任がいるよ。
 そう言って彼は笑みを浮かべる。なんか、もう、誰かうっすらとわかるような…。

「この学園の会長さんさ」
「……」

 また、だ。
 その彼のあげた人物に、逆に冷静になった。
 いつもそうだ。何かあるたびに出てくるのは会長。中頭黄蘭だ。
 確かに、彼は会長であって、頭も良くて、学校の全員の名前も覚えてて。相談とかもしやすいのかもしれないのだろうけど。

「ねえ、なんで会長なの?」
「なんでって……。昔、君は会ったことがあるんだろう? その会長と」

「……え?」

 なんで?
 なんでそんなことが分かるんだろう。あたしは、会長さんと出会った記憶なんてない…。
 あんな鮮やかな金髪、記憶にない。染めた色じゃない。あれは地毛のはずだ(同じ地毛だからわかる)
 それに、仮にも会長と出会っていたのなら、なんでそれを会長が知っている?
 ていうか、彼が言っているのが正しいとは言い切れないよね。本当に出会っているかなんて分からない。



「わ、わけがわからなよ…」

 思わず顔を手で覆う。
 頭が混乱してきた…! 馬鹿なあたしには無理な話だよ…!!
 ていうか、会長さんと出会うことって、今思うと全然ないんだよね…。生徒会室に行っても、いないこと多いし!! ウロウロしすぎだよ!!

「まあ、ゆっくりと知っていけばいいんじゃないかな…」
「……ゆっくりじゃ、ダメなんだけど…」
「え?」
「あ、いやっ! なんでもない!」

 本当は今すぐにでも知りたい。光鈴のこともある。自分や皆を守るためにも、早く知りたいのが本音だ。
 けど、実君の言ったとおり、ゆっくりと知らないと、あたしの頭がパンクしそうだ。知りたいことが多過ぎるんだし…。

「でも、色々分かったこともあるし…。今日はありがとう」
「ううん。気にしないで」

 お互いに椅子から立ち上がって、場所を移動する。
 しばらく歩いて、校門まで送ると、そこには車があった。運転席を見ると男性が座っている。迎えの人かな…。

「あ、そうだ」

 彼はもどる寸前に、くるりと振り向いてから、あたしに何かを手渡した。

「お守り。早く解決できるように」
「え、あ、ありがとう…」

 そういって彼が渡してきたのは、青い石の ようなものがついたストラップだ。
 けっこう綺麗だし……。スマフォにでもつけておこうか。
 改めてお礼を述べれば、今度こそ挨拶をしてから帰っていった。

 車が見えなくなるまで手を振って、そっと腕を下ろす。

「……会長に、会いに行こうか」

 取り敢えず、明日行ってみようか。
 そう意気込んで、取り敢えず家に帰ろう。


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