ぶくぶくあぶく

「俺自身は、それだけじゃないって思ってるんだ」
「え?」
「正直な話をすると、俺は君と同じ異能者だ」
「そ、そうなの?」
「そう」

 だけれど、彼は自分自身の能力を知らない。
 本当はこの学校に通って、自分の能力を知って、学んで使いこなさなければいけない。けれど、義兄も、学校の人も、グレアで…自宅に居ろということになっているらしい。
 彼自身は体が弱いからだと、小さい頃は思ったらしいが、今でもダメなのはおかしいと感じたようになったそうだ。

「なんで学校に行ってはいけないのかとか、自分の能力もわからない。だから、もしかしたら由希のことも分かってやれるかもしれない」
「あたしの?」
「うん。俺は、学校で学べない分、向こうでいろいろ学んだからね。義兄が頭も良くて、姉も優秀でさ。それに立派な図書館もあって。能力のことはすごい詳しいんだ」

 どや、とちょっと自慢気に彼は言う。
 確かに、あたしはここで色々と学んだけれど、あたしはまだ能力について知らなさすぎだ。周りに頼りっぱなしで、あっちゃんとかげん君とかゆう君とか…。先輩にもいつも頼ってばかりだし。少しは自分で知識を蓄えて、自分でいろいろ決めたり、行動できるようにならないと。

「それじゃあさ、その…少し聞きたいことあるんだ」
「うん、なあに?」

 お互いに椅子に座って、あたしは口に出す。

「今日さ、不思議な夢を見たんだ。一面浅瀬のような空間で、突然に闇に引きずり込まれる夢」
「へえ…」
「あっちゃん…。ああ、南彩鈴ちゃんって言うんだけど、彼女が言うには予知夢のようなものじゃないかって」

 でも、その予知夢は、能力の目覚める前に見ると言っていた。でも、あたしにはもう「光」を操るという能力を持っている。
 だから、そのようなことはないだろうと思うんだ。
 あたしがそのように言えば、そうとは限らないと言った。

「え?」
「君の周りで、2つ以上の能力を使う人はいない?」
「あたしの周りに…」

 そう言われてパッと浮かんだのは、

「武関玄眞君…って人がいて、彼は水と氷の能力を使ってた」
「だろう?」
「あと、これは違うかもしれないけれど…。先輩に、模倣っていう能力の人がいて、その人は一度見た能力を真似して使うことができてた…」

 それもちょっと似てるかな。と彼が言って、近くにあったスケッチブックに手を伸ばした。

「確かに、能力というのは基本的に一人一つ、一種類というのが普通なんだ」
「うん…」

 ゆう君とかげん君とか火燐先輩とか…。あの人たちはずっと同じ能力を使っていた。

「だけれど、使う人の器が多くて、力があれば一種類だけじゃなく、複数持てることがある」
「器…?」
「簡単に表せば、その通りお皿だ」

 彼はスケッチブックに、皿の絵を書き記す。すごい絵が上手い。

「普通の人は、ごく一般的なこの丸いお皿」
「うん…」
「けれど、武関君だっけ。彼のお皿はこんな感じ」

 そう言って彼が描いたのは、一つのお皿が数個に分けられているもの。例えるなら、お子様ランチなどのプレートみたいな感じだろうか。

「こんな感じで、元はひとつなんだけど、その中で分けられているのが彼のようなもの」

 それともう一つ。
 そう言って、彼が描いたのは、複数のお皿が置かれている。

「これが、君の先輩の場合だね」

 けれど、先輩の場合は、このお皿は小さいらしい。それは能力的に使えるのが限られているから。

「普通は、武関君のパターンが多いんだ。そしてその人たちの能力は、基本的に似ている。根本的なところは同じなんだ」

 確かに。武関君の能力は水と氷。彼の氷の技も、水から行なっている。つまりは、水の能力がなければ、氷の能力を使うことはできないということか。

「それで後者のパターンは滅多にいない。先輩のは、能力で一時的に使えるだけだ。現に限りがあるだろう?」
「確かに、力はその元と比べると弱いって…」
「そう。だから、彼は珍しい能力なんだよ」

 そうなんだ…。でもそうだよね、模倣ってのがいっぱいいたら、大変だ…。

「それで、君に相談された本題の方なんだけれど」
「うん…」
「その後者の能力の方は、滅多にいないと言ったけど、“居ない”というわけではない」
「……ん?」
「まあ存在しないわけじゃないってわけだよ」

 確率で言えば、1000人に1人くらいかな。
 と言われたけれど、異能者自体がそこまで多くないだろうに、そんな1000人に1人って、もう居ないようなもんじゃないか…!
 それは、もう存在しないようなものだろう…。

 思わず呆気にとられていると、彼はあたしの目を見る。

「だから、簡単に言えば、君がその1人かもしれないってことさ」
「え、ええ!?」

 1000人に1人!? あたしが!? まるで絶滅危惧種みたいな、そんな存在が!?

「で、でもそうと決まったわけじゃ…」
「いや、ありえないわけじゃないさ。さっきの君の夢の話を聞けばね」

 そう簡単に言うけどさあ…!
 思わず頭痛が痛い…。間違えた、頭が痛くなった。


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