うやむやにしたのは君だった




「それで、何があったの?」

 会長さんが俺たちのほうを向く。
 ……会長さんって、普段は天然な雰囲気だけど、偶にこうやってつかめないような雰囲気に変わるから…。
 なんかこう、掴めない人っていうかね。難しいや。

「……俺達も、会長さんに聞きたいことあったんです」
「ボクが先に聞いたのに…。いいよ、なんでも聞いて?」

 笑みを浮かべながら言う会長さん。
 俺はげんげんと顔を見合わせると、げんげんが小さく頷いた。俺も応えるように小さく頷き、再び会長さんの方を向く。

「あの、午南光鈴って人…知ってますか?」

 先ほど出会ったアイツ。そいつの名前を言えば、会長は全然表情を変えず、俺たちの方を見ながら口を開いた。

「……知らないな」
「ホントですか? そいつ、俺たちに、会長さんに聞けばわかるって言ってたんですよ」

 俺が再び問えば、先輩は首を横に振るだけだ。

「知らないよ。ボクは全校生徒の名前を知ってるけど、そんな人とは関わったことはない」

 俺とげんげんがどこか納得のできない顔でいれば、先輩はそのまま言葉を続ける。

「で、話の流れからで言うと、その彼が原因って感じかな?」
「はい…」
「ふぅん……」

 先輩が呟くと同時に、廊下の方から足音が聞こえる。
 二人が戻ってきたかな。
 げんげんと廊下のほうに目を向ければ、先輩が立ち上がる。そして俺たちの荷物が、先輩の手の中にある。

 い、いつの間に…。

 目を丸くすれば、先輩はさっきと打って変わって、いつもの笑みを浮かべた。

「ほら、今日は体育祭もあったし、疲れたでしょ? 早く帰って、ゆっくり体を休めないと」
「えっあ、会長!?」
「……いつでもいいから、生徒会室においで。その時にちょっと話そう」
「え!?」

 叫ぶと同時に、保健室の外に押し出された。
 その時にゆっきー達も戻ってきたらしく、ちょうどいいタイミングでばったりと会う。
 向こうは急な出来事に驚いたんだろう、目が丸くなっている。
 アリスちゃんはあらかじめ見てたのか、少し距離をとってるんだけどさ…。ちょっと悲しい…。

 ゆっきー達に荷物を預け、先輩の方に向かって頭を下げた。

「ありがとうございました」
「うん。気をつけて帰ってね。本当は送れたらいいんだけど、まだボク見回らないといけないからさ…」
「大丈夫です。じゃあ、また…」

 またね、と言って先輩は手を振る。
 ゆっきーも手を振って、一緒に玄関の方へ向かう。

「もう時間だし、送っていこうか」
「良いよーわざわざ」
「アホ。さっきまでのことを忘れたのか」
「うっ…」

 ゆっきーが言葉に詰まる。
 げんげんの言う通り、さっきまで危険な目にあったのに、わざわざ一人になるのはやばい。狙ってくださいと言ってるようなものだし、もう敵がいないとは言い切れない。

「本当は俺が送れればいいんだが…」
「でもげんげん、もう今日ずっと能力使ってるじゃん。これ以上使ったらお前が倒れるよ」

 今日が体育祭でなければなあ…。
 さっきまで楽しい体育祭だったのになあ…。体育祭の後というのが、こんなに辛いだなんて…。

「あはは…本当にありがとう。でも大丈夫だよ」
「いやでもな…」
「家なんてすぐだもん。じゃあね、また学校で」

 ゆっきーは小さく笑みを浮かべて走っていった。
 俺たちが声をかけるも、それを気にせずに走って行ってしまった…。

「あー…困ったなあ…」
「……由希さんだけ、というのは不公平ですし。私もお先に失礼しますね」
「えっ!? アリスちゃん!?」

 アリスちゃんも迷いもなく歩き出した。

「……女の子って逞しいなあ…」
「そうだな…」

 帰り道が一緒だから、男二人で帰る俺たちが一気にひ弱に見えてしまうじゃないか…。
 小さく溜息を吐きながら、結局いつも通り、げんげんと一緒に帰ることになった。




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