こんぺいとうのなみだ

「由希さん大丈夫ですか?」
「う、うん…。皆のおかげで…」

 皆がホッとするけど、げん君の目が険しくなる。
 ガシッと手を掴んでから、あたしに見せるようにする。

「お前…この手はどうした」
「そ、れは…」
「それに、この首…。さっきまでなかったよな?」

 首のさっき少し切られたところの、もう少しで触れるか触れないかあたりのところを触られる。それに思わず肩が跳ねるが、皆は気にしていない。

「……これは、さっき、アイツに…」

 あたしが目線をそらしながら言えば、皆の顔が一気に怒りの表情になる。
 こ、怖いよみんな!! めっちゃ怖い!!

「だ、大丈夫だってこれくらい! 大怪我じゃないし…!」
「そういう問題じゃないです!」

 あっちゃんの叫び声に、あたしは思わず体が硬直する。
 なんだか、この短時間で、いつものあっちゃんでは有り得ないような、そんな姿を目にしてしまう。

「由希さんは……由希さんは、怒っていいです……」
「いや、怒ってるよ? 光鈴に…」
「違います!! 私にです!!」

 ぴゃっと体が跳ねる。

「な、なんであっちゃんを怒らなければいけないの?」
「……さっきの、相手の言葉を聞くと、私がすべての原因のように思えました…」

 あっちゃんはそう言うと座り込む。

「私の所為です…」

 そう言い込む彼女は、いつも以上に小さく感じる。目の前にいる彼女が、とても小さい。

「そんなことないよ!」
「なくないです! こうやって、私は由希さんを巻き込んだ…。これで、2回目です…」

 2回目…。そういえば、初めてあっちゃんと出会った時にも、誰かに追われてた…。
 今考えると、あの人は誰だったんだろう…。

「私は、やっぱり他人を不幸にする…!」
「っ!」

 パンッと乾いた音がする。
 げん君もゆう君も驚きで声が出ない。あっちゃんも驚いたような表情をしている。

 当然だ、あたしが頬を叩いたからだ。

「これ以上、あたしの友人を悪く言うのやめて…」
「っ…!」
「今のは左手で手加減したけど、次また言ったら、右手で行く…」

 あっちゃんはそう言うと、涙をこぼした。

「すみません…! でも、由希さんの気が晴れるなら…それでもいいんです」
「そう言う意味じゃないよ!」

 初めてかもしれない。こうやってあっちゃんに、ううん。友人に向かって思いっきり叫ぶのは。

「気が晴れるも何もない! だって、あたしはあっちゃんに恨みなんて思ってないし、怒りだって何もない! 今の怒りは、あっちゃんの今の姿勢に関してだよ!」

 今度はあたしの目に涙が浮かぶ。

「今回のことは誰も悪くない! 絶対に誰も悪くない! あたしの注意力がなかっただけだ!」

 あ、光鈴は悪いけど! なんて。
 本当は、誰かの所為にした方が楽なのかもしれない。けど、そんなの絶対にあたしには無理だ。だって、今回は本当に誰も悪くない。

「だから、お願い、自分を責めるのをやめて…」

 ぼろぼろと涙が出てくる。久しぶりかもしれない。こうやって人前で泣くの。久しぶりって言ったって、昔っていうのはかなりの幼い時って感じだけど。

「それと、ほっぺ、叩いてごめんね…」
「いえ…逆にありがとうございます」

 あっちゃんはぎこちなく笑みを浮かべた。

「由希さんに怒られるのは十も承知ですが…。それでも、私は自分を許すことはできません。今回のこと、直接とはないとは言え、私が関係しているのが分かりました。それを、見ないふりにすることはできません…」
「……」
「由希さんに、私の所為ではないと言っていただけて嬉しいのです。ですが、こうやって少しでも認めてないと、私はダメになってしまう」

 責めないで、なんて、あたしも自己中すぎたかな……。

「あたしの方こそごめんね…」
「いえ、由希さんは悪くなんか…」
「いや、でも…」

 あたし達がお互いにでも、とかごめん、とか言い合っていれば、ゆう君が口を開いた。

「あー!! もうっ! 二人共ストップ!!!」

 ゆう君の言葉に、あたし達の動きが止まる。

「アリスちゃんもゆっきーも、もうおしまい! ゆっきーは少し反省して、アリスちゃんはもうマイナス発言禁止!」
「でも、」
「でも、もなし!」

 ゆう君がビシッと指をさすので、思わずたじろぐ。

「二人もお互い大事だろうけど、俺らだって、二人が大切なんだからさ…」

 さっきまでつり上がっていた眉が、へらっと垂れ下がる。

「二人を悪者にされたら、俺だって辛いよ」
「……西野さ、」
「だから! もうおしまーい!!!」

 パンッとゆう君が手を叩けば、げん君がため息を吐く。

「ここは優羽に賛同する。もう終わりにするぞ。ここで止めなければ、一生引きずる。それだけは止めておけ」

 引き際も肝心だぞ。
 そう言って、げん君があたしを抱えて立ち上がる。
 そ、そういえばまだ抱えられてたままだったかな!! 忘れてた!! って恥ずかしいよこれうわあああ!!

「げん君下ろして…!」
「断る。これから学校に行くぞ」
「え? なんで?」
「バカかお前、怪我を治してもらうんだよ」

 あ、そっか…。
 思わず自分の手を見る。そして軽く首に触れてみる。うん、完全には血は止まってなかったんだ。うん、これは危ない。

「了解です…」
「よし」

 お前らも行くぞ。
 げん君がそう言うと、皆してげん君を掴む。

「おい南。薙刀」
「あ、そうでした…」

 そういえば…。

「あっちゃん、その薙刀って…」
「あぁ、これはですね…」

 彼女がそう言うと同時に、薙刀の姿が変わっていく。徐々に変わっていき、数秒後には、先日見たことのある、少し長いリボンが彼女に手にあった。

「これ…!」
「はい、先日言っていた、試作品として渡されたものです」

 また近いうちに、説明しますね。
 そう言って、彼女はポケットにリボンをしまった。

 そういえば、光鈴のネクタイ…。あれも日本刀に変わった。あれも、なにか関係あるのかな。

 そう思ってると同時に、げん君が移動するぞ、というので、あっちゃんはげん君のカーディガンを掴む。


 光鈴の、気になるところはたくさんあった。

 それは、これからのあたし達にどう影響するのか。まだ、分かるはずもない。




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