こんぺいとうのなみだ
軽く諦めかけたあたしの表情に相手は、笑みを浮かべ、拘束されていた手の力が弱まる。
「安心しろ。一瞬だ。それに、すぐにお前の仲間も連れて行ってやるからな」
それは、あたしだけじゃないってことを意味してる。それだったら、あたしは絶対に許せない。
あたしは、弱まっていた手の拘束を振り払い、思わず首の真横にある刀を掴んだ。
「いっ…!」
ちょっと馬鹿なことをやったと思う。刀を抑えて、手のひらが切れて血が流れた。
相手は急なことに驚いている。
「お前…!」
相手の腕が首に移動し、思いっきり力を込められる。
苦しい。首が圧迫して、空気が入ってこない…!
相手の顔がぼやけ始めた瞬間、何かに気付いたように、光鈴はハッと双眸を見開いた。
刹那、まるでガラスが割られるような音を立て、闇が、裂けた。
「チッ!」
相手は刀を地面から引っこ抜いてから、あたしの上から跳び退いてフードを被る。
闇を裂いたのは、どうやら雷――つまり、
「ゆっきー!」
ゆう君だ。ゆう君が一緒ということは…!
酸素不足と喉の痛みで朦朧とする意識の中、感じ取ったのはただならぬ殺気だった。
「北村!」
「ゲホッ――っ、げん君…ゆう君…」
仰向けのままのあたしに駆け寄って、ゆう君が泣きそうな声であたしを呼び、げん君があたしを抱き起こす。光鈴があたしから距離を取るが、それに向かって、あたしの横に膝をついたゆう君が、何かを投げた。
それを見れば、電気を浴びたハサミ。それは確実に闇のようなものに刺さり、そこから電気がヒビを大きくしていた。
「動かないで。そのハサミに俺が雷を落とせば、君、感電死するよ」
ゆう君が冷やかな声でそう告げた次の瞬間、光鈴の後ろから閃光が闇を貫き、パァンと風船が破裂するような音を立てて、闇が弾ける。
「西野さん、その必要はないです。あとは私がやります」
弾けた闇の向こうから現れたのは、ゆう君やげん君以上に殺気を放つあっちゃんだった。
普段より相当低くなっているその声は、その怒りの度合を示しているようで、自分に向けられている訳ではないとわかっていても萎縮してしまう。しかも過去に見たことがなかったからね…。
そんなあっちゃんは、体になじませるように、薙刀を回している。その薙刀は一体どこから…。しかも使い慣れていませんか…?
「抵抗しないでください。した場合には、それ相当の処置をさせていただきます」
ビシッと刃を光鈴の方に向け、あっちゃんはそう言い放つ。
しかし、そんな光鈴は、少し冷めた表情をしてから、小さく笑みをこぼした。
「オレに向かって言うセリフか? それは」
もうすでに役目を果たしていない蠢く闇を踏みつけて、光鈴は言う。
彼がフードをとって顔を上げれば、ゆう君とげん君の目が開かれ、2人はあっちゃんの方を見る。そして、あっちゃんの目も開かれる。
「私…?」
あっちゃんがポツリと呟けば、光鈴はさっきとは打って変わって、少しだけ柔らかい表情に変わる。
「えっあっ、アリスちゃんのドッペルゲンガー!?」
ゆう君少し黙ってくれ…。
「彩鈴、オレは、奪われたものを取り戻す。その為に来た…」
そう言って、彼は腕を伸ばした。
「迎えに来た。彩鈴」
「な、にを…」
慌てて薙刀を構えようとしたけど、既に遅かった。
彼はそう言うと一瞬で、あっちゃんの前に現れる。急なことであたし達は何もできず、驚くだけだ。あっちゃんも急なことに何もできなかった。光鈴に手を叩かれ、薙刀を離してしまう。
カランと地面に落ちる音がすると、あっちゃんは彼の方を見る。
「迎えなんて…何の話ですか。それに奪われたって…」
あっちゃんが睨みながら言うと、彼は暫くしてから、笑みを浮かべる。
「それなら、お前の知り合い…。時羽の生徒会長、中頭黄蘭に聞けばいい」
「…え?」
皆の声が被った。どうして、会長が知ってるわけ?
そう言って彼は、最後に爆弾を落としていった。
「愛してるよ、オレの大切な妹」
ゆう君達の目が開かれた。
あたしは、もう今までの流れでうっすらと感じていた。今日の体育祭での彼の言葉、それにあの容姿…。逆に納得がいったぐらいだ。
「ちょっ! どういう…」
ゆう君が思わず叫ぶけど、彼は風と共に姿を消した。
「な、なんだったんだろ…」
思わずゆう君がポツリと呟けば、あっちゃんは暫く彼が消えたところを見ていたが、直ぐにあたしの方に向かってきた。
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