体育祭 後
パァンッとゴールを知らせる音がした。
それと同時に、3人が同時に転がっていく。
なんだろう、この学校はゴールするたびに転ぶというルールでもあるのだろうか。
《えっと…どうやら、僅差ですが1位、体育委員!2位、生活委員!3位、放送委員です》
「っしゃあああ!!」
放送を聞いて、ゆう君が叫んだ。皆で水連先輩の方へ走っていく。そして皆で先輩の上に飛び乗っていく。だめだめだめそれダメなやつ。先輩潰れる。
そしてあたし達も火燐先輩たちの方へ行く。
早緑先輩も倒れたままで、紅煉君が肩を揺さぶれば、ゆっくりと起き上がる。
「くそったれが…! アレを蹴っ飛ばしてなければ1位だった…!」
「本当にもう憎しみのこもった顔でしたやん」
「つい体が…」
火燐先輩も未だに潰れたままだ。そして小さく、ごめんと謝っている。焔真先輩が起き上がらせると、先輩は顔に手を当てている。彩兎先輩が手をどかそうとすると、それを必死に拒むが、顔が露になる。
「見ないでよお! もぉー!!」
先輩は結構な大泣きという感じで、涙がボロボロと溢れていた。
「負けてもいいって言ったけど! 本当は勝ちたかったのよおお!」
「そうだな」
「うわああ! 水憐のばーか! ばーかばーか!」
先輩、水憐先輩、疲れと潰されたことによる圧迫で反応できません。
火燐先輩は焔真先輩にしがみついて泣いている。それを彩兎先輩が後ろから火燐先輩がハグする。慰めてるのか、と思ったけど顔笑ってる。この人顔笑ってる!
そのあと次々とゴールをしていく。
《生徒会のアンカーは……いません! 探さないでくださいと書いてあります! 棄権です!》
放送を聞いて、炎の柱と水の柱と風の柱が出来上がった。おっと、会長さん逃げないと危険だぞ。紫恩先輩と虎臣先輩もかなり怒ってるぞ。
「あのクソ会長が…」
紫恩先輩からそう聞こえたのは気のせいにしよう。
《優勝は体育委員です! 体育員の皆さんにはSBの特別券をプレゼントです》
軽く死にかけている水憐先輩を豪波先輩が抱えて、それを受け取る。
皆で飛び込むからだよ…。
《総合優勝、青軍!》
結果発表と同時に、青軍の生徒は大きな歓声を上げた。
そのあとのクラス対抗リレーと軍対抗リレーでは、私達赤軍といい勝負を繰り広げたけど、最後まで青軍が勝ちを持っていった。
いやあ、やっぱり強かった…。そして怖かった。
第2位は私達赤軍で、3位は白軍、4位が黒軍だ。
あの委員会対抗リレーのあと、会長は生徒会メンバーにボコボコにされていた。その風景は、あれだ。浦島太郎の、冒頭の亀といじめっ子みたいな。
《続いて、応援優勝は…赤軍!》
次はあたし達の軍が大きな歓声を上げる番となった。
でも正直信じられない気持ちの方が大きい。だって、青軍の応援恐ろしかったし! クオリティ高かったし!
それでも、出場しているみんなを応援する声はどの軍より大きかったし、団結も最高だった。ということで、応援優勝はあたし達が頂いたのだ。
それと、この体育祭で飾られていた、各軍の応援パネル優勝は黒軍だった。
ちなみに、それぞれのパネルは、赤が朱雀、青が青竜、白が白虎で、黒が玄武だった。打ち合わせしたないのに揃ったんだって。偶然ってすごい。
《それでは表彰式に移ります。青軍、赤軍の応援団長。黒軍のパネルリーダー。それとそれぞれの対抗リレー優勝の代表者は、前に出てきてください》
ぞろぞろと出ていく。うん、やっぱり顔なじみの人ばかりだ。
そして、軽くボロボロになっている生徒会長から賞状をもらい、表彰式は終了した。
《これにて、体育祭を終了いたします。皆さんお疲れ様でした!!》
わあああ!! とグラウンドが歓声に包まれる。
それと同時に、体育祭が終わってしまったんだなあ、という気持ちも大きかった。
「豪波先輩、お疲れ様です」
皆で先輩のところに行けば、彼は一瞬驚いた表情をしたけど、すぐに笑顔を浮かべる。
「おう。おつかれさん」
「えっと……」
なんて言おうか、とゆう君達とこっそり話し合う。
それを見て、先輩は吹き出した。
「あっははは! もしかして心配してくれたのか?」
「あー、まあ正直な話…」
ゆう君が苦笑い気味に答えれば、先輩はニッと笑みを浮かべた。
「確かにな、最後の体育祭だったから、勝ちたい! ってのはあったさ。それでも、応援優勝取れただろ? これは、みんなが1番団結したってことだと思うし、皆が仲が良かったからこそ取れたんじゃないかって思う」
ありがとな。と先輩が笑えば、げん君も口を開く。
「先輩がいたからですよ」
「俺か?」
「先輩だからこそ、皆がまとまったんだと思います」
そうかな、と豪波先輩が頬を掻く。
チラリと目線を横にずらせば、見覚えのある後ろ姿。壁に隠れてるつもりかもしれないけど、話を聞くために少し乗り出してるせいか、ちょっと見えていた。思わず笑みがこぼれる。
「水憐先輩も、きっと同じ気持ちですよ」
「ん? なんで水憐が?」
その瞬間、ガタッと物音がした。
みんなでそちらを見れば、そこにはもうモロに姿が見えている水憐先輩。豪波先輩が驚いた顔をするけど、その対照的に、水憐先輩は顔を真っ赤にさせた。
「水憐そうなのか?」
「うっ、ううううるさい! そんな訳ないでしょうばか!」
「ははっありがとな」
「調子に乗らないでください!」
豪波先輩が水憐先輩に近寄って、思いっきり頭を撫でる。それを水憐先輩は鬱陶しそうに振り払おうとするけど、その様子は見てて笑が浮かぶ。
「そういえば、ゆっきーってげんげんから、なんてお題出されて一緒に行ったの?」
「え?」
急な質問に、思わず驚きで声が裏返った。
カサッとさっきげん君からもらった紙が、ポケットで音がする。
「ひ、秘密ー」
「あー、じゃあ良いよ、げんげんに聞く」
「わあああ! 待って、言う! 言うからさ!」
ちょいちょい、とゆう君を呼んで、紙を見せる。
「えっと、何々『気になる人』……ん?」
ゆう君があたしの顔を見る。そして、再び紙のほうを見る。
「……まさか、ねえ…」
「そう、だよね…!!」
「何がだ」
「うわああああ!!!」
後ろからの突然な声にあたし達は悲鳴を上げた。
後ろを振り向けば、話の話題のげん君。げん君はどうしたのかと聞いてくる。えっと、深く聞くなって言ってたし…ええ…。
そして、彼の目線が、ゆう君の手元の紙に移る。そして、眉間の皺を濃くした。
「北村……」
「ごっごごごごめんっ! でも、気になってさ!」
あたしがから笑いでいれば、彼は深い溜息を吐く。
「そのまんまだが」
「え?」
「え!?」
ゆう君と声が被った。
「そっ、そそそそそれってどういう!?」
二人で詰め寄れば、彼はもっと皺を濃くした。
「お前がこれからどうなってくか、気になるってことだよ」
げん君はため息を吐いてから、踵を返して歩き出した。
あたし達はポカンとした表情になり、お互い顔を見合わせる。
「……よ、よかった…?」
「よかったの?」
「いいんだよ!!」
ゆう君の言葉に少し乱暴に答えながら、あっちゃんのいる方に向かった。
体育祭終わったけど、少し、複雑だ。
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