体育祭 後
部活対抗リレーが終わり、次は何だろうかと思ってプログラムを開けば…。
「あ、次騎馬戦だ」
「由希さんの出番ですね」
「そうだね。よし、行ってきます!」
あたしは小さく気合を入れてから、召集場所に向かう。
騎馬戦は、やっぱり体育祭では欠かせなく迫力のある種目の一つ。
団長騎馬と、その周りを固めたり…。各軍で作戦が違うのも、また面白い。
中学の時はずっと下だったけど、上の子が何とか取ったハチマキには、沢山の毛が絡まっていて、あれは真面目に怖かった記憶がある。そんな私は今年上に乗るわけだけど。髪の毛持ってかれないようにしなきゃ。髪の毛を縛り直す。
よし!
私の騎馬の人は結構背が高い人で先輩だった。その上に乗ることに申し訳なさと、軽い恐怖感を感じつつ、上に乗る。
お、重くないといいんだけど…!
1回戦目から青軍が相手だし…。恐ろしいなあ。
なんて軽く遠目で相手の方を見ると、見覚えのある髪色のポニテの人…。
朱理さんだぁー!!
やだ! あの人が相手とか怖い!!
彼女もあたしに気付いたのか、あたしの方を見て笑みを浮かべた。ニコッじゃなくて、ニヤッだけど。
「ゆっきーがんばれー!!」
男子の方からゆう君の声が聞こえる。彼の隣にはげん君がいるんだけど。
彼の方に向かって、拳を握ってみせた。するとゆう君も同じように拳を握る。バチッとげん君と視線があったけど、思わず目線をそらす。
その様子にゆう君は疑問げだけど、気にしてる暇はない。直ぐに騎馬戦が始まる。
開始の合図が鳴って、皆が一斉に進みだした。
兎に角、今はこれに集中!
あたしが敵の方に指をさせば、騎馬の人が凄い速さで相手に向かう。
早っ! この騎馬早っ!
そしてあっと言う間に相手の陣地にたどり着き、あたしはハチマキを掻っ攫う。怖い。何が怖いって、下の先輩たちだよ。
チラッとハチマキを見れば、髪の毛は巻き込まれてない。小さく息を吐いた。
すると、後ろから危ないって声が聞こえ、ちょっとした殺気を感じた。
思わず勢いよく首を横に動かせば、勢いよく何かが横をかすめた。
こ、こわー…!
思わず冷や汗が垂れる。後ろから小さく悔しそうな舌打ちが聞こえる。騎馬の人が体制を整えて、その人のほうに体を向けた。
「由希うまく避けたねえ」
手首を軽くぷらぷらと揺らしながら言うのは朱理さんだ。
うわあ…。もう迫力が違うよ。これが四天王か。
「知ってる? この競技も異能者って力使っていいんだよ?」
「え? それって…」
「こういうこと!」
朱理さんが勢いよく炎をぶつけてきた。
「うわ、うわわわっ!!」
あたしが慌てて能力を使って、その炎が下の先輩たちにも当たらないようにする。なんとか攻撃を防げば、先輩たちから安堵の息がこぼれた。
それにしても、この学校は本当に何でもありだな…。まぁ、もう慣れたけど!
「やるじゃん由希! この体育祭の特にルールがないのは、各学年種目、委員会別リレー、そしてこの騎馬戦。なんでもアリだから…覚悟してね!」
彼女はうまくバランスをとって、騎馬の人の肩に自分の足を乗せる。え、え? 何する気なのこの人。
その様子を見守っていれば、彼女は肩を蹴って、空中に飛び上がった。
「ええ!?」
彼女はその場で能力を使って、体育祭開始の時に出した羽を再び出す。
「もう騎馬戦じゃない!」
「今更! 時羽にルールなんてないも当然だよ!」
この暴君!
なんて思っていれば、彼女は上手く空中に浮かんで、そしてこちらの方へ降下して、すぐに炎で攻撃をする。けれどあたしだって負けてないんだぞ。これも能力を使って全部打ち返す。
すぐに先輩が騎馬の上に戻って、こちらに向かってくる。
先輩がその気なら、あたしだって…!
バッと両手を前に構える。さあどこからでもかかってこい!
先輩の伸びてきた腕をガシッと掴む。もう片方の腕がまたこちらに向かうけど、それをもう片方の腕で防ぐ。
ぐぐぐ…とお互い譲らず力を込める。
「ふふふ…由希なかなかやるじゃん…!」
「鍛えられましたからね…!」
お互い目の前にハチマキがあるのに、それがなかなか取れない。目標が目の前にあるのにとれないだなんて…! こんなに辛いものか!
ここは、イチかバチか…。
掴んでいた両手を離して、一瞬の隙に相手の頭の方へ手を伸ばす。
朱理さんは一瞬驚いた表情をするけど、すぐに笑みを浮かべた。
やばい、選択ミスったかも。
一瞬でそう考えた瞬間。
「危ないっ!」
「へっ!?」
下の騎馬が急に横にグンッと移動したので、体が一瞬反対に揺れ、すぐに移動した方向に体が移動した。
な、ななな何!?
驚いてさっきのところを見れば、火燐先輩が居た。
「ちぇっ、おしかったな」
火燐先輩が軽く口を尖らせた瞬間、朱理さんが叫んだ。
「ハチマキ!」
「え? あ、」
あたしの手元を見れば、さっきの反動で取れたのであろう。朱理さんのハチマキが手に収まっていた。
や、やったー!! とれた!! 四天王から!
喜びでガッツポーズをするあたしとは対照的に、朱理さんは悔しそうに騎馬から降りた。
「あーあ、負けちゃった…」
ちょうどその時に、試合終了の笛がなる。
パッと周りを見渡してみると、数は五分五分。だけど、今あたしがハチマキとったから…。
「赤の方が多い!」
皆で喜びながら、最初の位置に戻っていく。
やっぱり、こっちのほうが騎馬は残っていた様で、騎馬戦はあたしたちの勝利、ということになった。
「やったー!!」
「青軍に勝ったー!!」
その後、男女含めて二回敵の軍に負けたけれど、何とか騎馬戦の総合で2位だ。これならまだチャンスは有るかな…。
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