この手を取って

 あたしがドキドキすれば、あっちゃんは彼女自身の能力について説明を始めた。

「私の能力は、視る事です」
「視る…?」

 どういう事だろう…。そう思っていれば、彼女の目の様子が少し変わる。例えると、暗いところと明るいところとで変わる猫みたいな。

「次、この店に二人の女性が来ます。お一人はショートヘアー、もう一人は背中までのロングヘアー。お二人ともスカートをはいています。」
「え?」

 ガチャッと扉が開き、カランカランとお客さんが入ってくる音が聞こえ、少し腰を浮かして扉を覗いてみると、そこにはあっちゃんが言った二人の女性が居た。髪型もあっていて、二人ともスカートをはいている。
 そして何より、あたし達が座っているところは外が見えないし、あっちゃんは扉に背を向けている。

 あたしは目を丸くした。

「す、凄いよあっちゃん! あっちゃんの言う視るってこういうことなんだね!」

 あたしがワクワクしながら言えば、彼女は目を伏せたままだ。どうしたのかな…。
 あたしが彼女の名前を呼べばあたしの目を見てくる。

「それもあります。ですが、あたしの一番得意なことは…」

 彼女はそこまで言うと、言葉が詰まる。言いたくても言えない、そんな感じだ。

「…もし、私の能力が気持ち悪いと感じたら、私と関わらない方が良いです…」
「な、なに? いきなりどうしたの?」

 苦笑い気味に答えるが、彼女の目は真剣だ。思わず口をきつく閉じてしまう。大丈夫、きっと。

「あたしが得意なのは、相手の心の中を視る事です」

 心の中を視る…。
 思わずぽかんと間の抜けたような顔をすれば、あっちゃんは辛そうに唇をかむ。彼女の様子を見て、ハッとする。
 誰だって心の中は覗いてほしくない。口に出したくないことを閉め込んでいるんだ。それが見えてしまうと、相手は関わろうとはしないだろう。
 きっと、この能力は、彼女にとっては重荷なのかもしれない。

 彼女の小さな背中に、どれだけの苦労が積み重なっているのだろうかと、気になってしまった。

 あたしは彼女の手を取り、笑みを見せた。

「大丈夫、あたしはその能力は凄いと思うよ!」

 あっちゃんはポカンとした表情になる。あたしはたははっと苦笑いを浮かべながら続けた。

「だって、あっちゃんはその能力を生かしてさっきあたしの事を助けてくれたじゃない。あたしはそれでとっても嬉しかったよ!」

 出会ったとき、きっと彼女はあたしの心を視て声をかけてくれたんだ。それがとても嬉しくて、一人でこれから先不安だらけなのを、不安を小さくしてくれた。

「あたしはあっちゃんに助けられたんだよ!」

 あたしが能力でテンパってた時だって、先に能力に目覚めている彼女に助けてくれた。彼女には感謝してもしきれない。



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