体育祭 前
集合場所に移動したあと、すぐにスタート位置に移動する。因みに、1年女子は応援席側で走ることになる。
私がふと応援席に目を移すと、そこには…。
「あ、由希ちゃんだー」
あたしの方を見て手を振ったのは火燐先輩。そんな先輩の隣には朱理さん。火燐先輩のハチマキの巻き方可愛い…! リボンになってる! 朱理さんは手首に巻いている。私は定番のカチューシャ風だけど。
火燐先輩は笑顔で手を振ってくれて、口パクで頑張れと言ってくれている。今は別の軍だけど、同じ委員会の後輩だから、応援してくれてるのかな…。
兎に角、こうなったら絶対に負けてられない。
私は小さく気合を入れた。
あっちゃんは、どうやら走るのがあまり得意ではないらしくて、最初の方に並んでいた。周りと比べても、一回りくらい小さいあっちゃんは、すぐに人ごみに隠れてしまったけど…。
《よーい…》
パァンッと合図と同時に、100m走が始まる。
わああ! とグラウンドが歓声に包まれる。皆がそれぞれ本気で走ってるのを見て、なんだか思わず笑みが溢れる。
やっぱり先輩がいるから、本気出さないとなってなるんだよね。それはあたしにも言えることですけど。
どんどん走者が走っていき、次はあっちゃんだ。
「あっちゃんガンバレー!」
私が叫べば、あっちゃんは振り向いて笑みを浮かべていた。そして案の定というか、ね…。
「アリスちゃあーん! 頑張れー!」
ゆう君の大声が響いた。やっぱり…。
あっちゃんはゆうくんの方を見て、軽く手を挙げていた。
「げんげん! アリスちゃん返してくれた!」
それでいいのかゆう君。
「それでいいのかお前」
あ、言葉が被った。
そんなこと言ってる間に、もうあっちゃんはスタートの構えだ。
パァンと合図が響くと同時に、あっちゃん達は走り出す。普段全然走ってる感じのイメージがないから、少し不思議な感じだ。
それでも、普段のSBの慣れっていうか、走り方は結構様になっているようには見えた。なんか言い方が上から目線ぽくなってしまったけど! でも、つまりはアレだよ。かっこよかたってことね。
あっちゃんは見事に1位でゴールした。走るのは苦手だって言ってる割には、早かったような気がするけど…。
皆があっちゃんにお疲れー! と声をかけている。あっちゃんはそれに片手を上げながら答える。そして走り終わった人たちの後ろに座り込んだ。……疲れたんだろうな…。
どんどんみんなが走っていき、あっという間に私の番だ。
私が少し緊張しながら立ち、ハチマキをキュッと力を込めて結ぶ。頑張るぞー…!
「ゆっきー頑張れー!」
声のした方を見れば、ゆう君が笑顔で腕を振っていて、その隣のげん君も口パクで頑張れと言っていた。前を向けば、あっちゃんも笑みを浮かべている。これは頑張るしかない!
《よーい…》
合図が聞こえて、私は構える。
パァンと響くと同時に、あたしは足を前に思いっきり動かした。この風を切る感じ、結構好きだ。それに、こっちに来てから走ってばかりだけど、こうやって走るのは久しぶりな気がする。
あっと言う間に走りきり、何とか一着でゴールした。
一着でゴールすれば、それは清々しいってもんで…。よっしゃ、と小さくガッツポーズした。
「由希ちゃーん! ありがとー!」
「ゆっきーお疲れー! おめでとー!」
クラスメイトの子とゆう君が、あたしに大きく腕を振ってくれたので、あたしはなるべく笑みで、拳を握って腕を前に出した。
その後着々と皆も走っていく。
あたしのクラスの子って、結構皆速かったんだ…。
新たな発見をすることができた。
「あっちゃんお疲れー」
「由希さんもお疲れ様です」
あっちゃんの横に移動して、ちょこんと座ってみる。
「あっちゃんかっこよかったよ!」
「ありがとうございます…。それを言うなら由希さんもですよ」
「本当? ありがとー!」
褒めてくれると嬉しいもんだよね。思わずへらっと笑みが溢れる。
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