体育祭 前
体育祭が始まり、まず最初に行われるのは、入場という名のパレードだ。
各軍ごとに、パフォーマンスをしながら入場してくる。これも得点の一つになっていて、この体育祭で1番華やかな競技、らしい。あと、午後の第一種目の応援合戦も、また華やかなんだけど。
「青軍本気すぎるだろ」
あたしの呟いた言葉に、周りに居たみんなが大きく首を縦に振った。
私たち赤軍はもうパレードは終わっていた。あたし達は赤ずきんちゃんだった…。最初は行けるのかと思っていたけれど、観客の人たちが「かわいい」と評判が良く、結構得点をもらえていた。
しかし、しかしだな…。
「応援合戦で新選組かと思えば、まさかのここでも新選組でくるとは…」
素晴らしい舞です…。
とあっちゃんがポツリと呟く。うん。そうだね…。
新選組と新政府軍だっけ? それの戦いの完全再現みたいなさ。それをミュージカル風にやっててさ。なんていうか、あんな短時間でどうしてここまで完全再現できるんだよ。
応援団長の藤原先輩が、女性だけど近藤局長役をやって、竜峰くんが土方さん役。おなじみの人は他にもいろいろやってるみたいだけど、私にはわからない。
新選組が青軍で、敵ポジションが他の軍らしい。なんか、もう普通に演劇観てるみたい。
「青軍怖いわー」
うさ耳をつけている彩兎先輩がそう言えば、狼の格好をした豪波先輩が笑う。
「こりゃすげえや!」
「豪波笑ってていいのか…」
猟師の格好の焔真先輩が軽く苦笑いしてる。けど豪波先輩は気にしてないらしい。
「いや、俺らのやつも面白くて良かったって言ってるし。俺は満足だよ」
豪波先輩の言葉に、ジンときた。
豪波先輩って本当に心が広い、というか器が大きいというか…。だからこそ、なんか先輩のために頑張ろうって思えるな。
だがしかし、先輩の格好で言われると少し、というかだいぶシュールだ。
「次は白軍だよ」
ゆう君がそういうのでそちらを見る。
皆がほかの軍を見ていれば、そう言えば中学の時の体育祭も楽しかったなーってことを思い出す。
中学の時はあまり人数の多かった学校ではないから、3クラス…まぁ3軍なんだけど…。それで色々なことをしたよなあ…。なんか懐かしくなってきた。中学の皆に………。あれ?
「ん? んん?」
「どうかしましたか?」
あたしが首を傾げれば、あっちゃんがどうしたのかと聞いてくる。
「あ、えっと…ちょっと物忘れ?」
「物忘れ…というと?」
「んー…人物の顔がパッと浮かんでこないというか…!」
こんな物忘れひどかったかな…!! あー! でも、こう霧がかかったような感じで思い出せない!!
あたしが軽く頭をかけば、あっちゃんが苦笑いを浮かべる。
「思い出せないと結構辛いですよね」
「だよねー! 地味にイライラするというかなんというか…」
口を尖らせてブーたれると、ゆう君が笑う。なんだ、会話聞いてたのか。軽く睨みつければ、ゆう君は笑いながら謝る。反省の色を全く感じない。
「そんな思い出せないものにイライラしなくたって」
「えー、じゃあゆう君はそういうのないわけ?」
「まー、思い出せないのも辛いけど、思い出せてもらえないのも辛いかも」
「え?」
ゆう君の言葉に、あっちゃんが反応する。けど、ゆう君は豪波先輩に呼ばれてそちらに向かってしまった。
「あっちゃんどうかした?」
「あ、いえ…。似たような話を、この間したなあと思いまして…」
「ふーん…」
ゆう君とそんな話でもしたんだろうか。
そういえば、ゆう君達と初めて会ったとき、ゆう君はあっちゃんにやっと見つけたとか、そういうこと言ってたような…。
今更なんだけど、これってどういう事なんだろう。
「あー…分かんなくなってきた」
私がそう呟けば、あっちゃんはクスリと笑みを浮かべた。
「取り敢えず、今日は体育祭を楽しみましょう」
「うん…。そうだね!」
悩むのは終わったあとからでも遅くない!
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