あの人の影は未だわたしの前を歩く



「ほら、見てくれよ。明日着る衣装なんだ」
「わー! かっこいい! 青い羽織だー!」

 青也が少し嬉しそうな笑みを浮かべながら、あの羽織を広げて見せてきた。
 青也は、この間のくじには出ていなかったけど、応援リーダーらしい。なので、応援合戦の時に着る、合戦服を見せてくれた。
 青い羽織、と言って分かる人には分かる、某青い羽織である。歴史好きにはたまらないね。私はそう言う、俗にいいう歴女って訳ではないけれど、新選組は好き。
 皆で同じ志を持って、誠を貫く。かっこいいじゃない。

 ま、それは置いといて…。
 凄ーい。これ着て踊るんだ…。面白そう!

「へぇ、本物みたいだ」

 生徒会室に居た黄蘭も、少しばかりか輝いているように見える。やっぱこの人も好きなんだろうか。
 青也は黄蘭が来ると、少し慌てたように羽織をしまった。

「そっか、明日か…。遂に体育祭かあ…」
「あー、会長は3年ですからねえ」
「ラストだもんね。やっぱり寂しい?」

 私がそう言えば、彼は一瞬驚いた表情をしたけど、直ぐに笑みを浮かべた。

「そうだね。このメンバーでラストの行事ってなると、寂しいもんだよね」
「留年すれば?」
「ひどっ! 朱理ちゃんひどいなあ…」

 そう言いつつも笑顔だから、この人はいじられるんだと思う。私は。
 軽く悟っていれば、黄蘭は自分の腕時計を見て「あ、」と声をもらす。

「ちょっと出かけてくるね。最終確認してこなきゃ」
「りょーかいでーす」

 軽く返事をすれば、彼は部屋から出て、パタパタと走っていくのが、音を聞いてわかった。
 そして黄蘭が居なくなれば、急に静まり返る教室。

 先日、青也と私の間にあったいざこざ…。っていうか、なんていうか…。
 まぁ、最初に話題を振った、私が悪いっちゃあ悪いんだけどさ。でも、本当はずっと待ってたんだよ。姉弟で一緒に暮らすの。
 でも、覚えてないって言われて、すっごい悲しくて。だから思わず逃げ出しちゃったりして。

 生徒会に集まれば、嫌でも顔を合わせるから、今まで避けてたけど。流石に、もう来てよと黄蘭から軽く怒られたので、来たわけですよ。
 うーん、軽く策にハメられた感がしないでもない。

 どうしようかなあ…。

 なんて思っていれば、向こうから口を開いてきた。

「な、なぁ」
「ん? どうしたの?」

 私が聞き返せば、向こうは私の方を見るが、どうも目を合わそうとしない。なんていうか、なんて言おうか悩んでいるようだ。
 ここで急かしたら、この前の二の舞だろうし、ちょっと気長に待ってみようか。
 気長に待とうと思ったけど、またなくても良かった。直ぐに気を入れなおして、話しだした。

「この間は、変にお前を傷つけて悪かった」
「なんかそのいい方誤解招くよ」

 思わずそう言えば、向こうは少し慌て出す。

「俺、昔の記憶がどうもあやふやで…。今までは、ただ昔の覚えが悪いだけかって。ただ忘れているだけだろうって、そう思ってたんだ」

 真剣な顔をして言う彼に、私はただ黙って先を促すだけ。

「だから、最初お前が言ったことが信じられなかったから、思わず酷いことを言った」

 すまなかった。
 そう言って、彼は深々と頭を下げた。

 え、えぇぇぇぇ!!??

 なんか、本当に礼儀正しく腰曲げてるこの子…! 90°…! 変に礼儀正しいな子の人は本当にもう! 竜峰家の教育すげえ!

 私が慌てて顔を上げるように言えば、それでも彼は頭を上げない。

「俺、家に居たじいちゃんとばあちゃんに聞いたんだ。姉が居るのかって」

 思わず、ピタリと私は動きを止めた。

「そしたら、2人は少し間を空けてから、昔のアルバムを持ってきた。そこには、俺と、朱色の瞳が特徴的な、女の子を抱える、俺の母さんと男の人が写っていたんだ。直ぐに分かった。これは、この4人は家族なんだって」

 実際に、私は父子家庭だ。母さんが居るのもわかっているし、両親が離婚したわけでもない。ただ、家庭の事情というやつで、別居しているだけだ。父さんが言うには、夫婦は至ってラブラブだそうだ。爆発しろ。
 なんて、少し話がズレた。
 ま、これで分かるように、私の母さんは青也と暮らしているわけだ。

「その写真を見て、あの人の言ったことは本当なんだ、って分かって。色々聞いたら、段々と昔のことも思い出してきて」

 本当に悪かった。
 そう言う彼の声は、軽く震えていた。

 あぁ、やっぱり私の弟だ。強がりなくせに、泣き虫なところ。私とソックリだもん。



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