すばらしい春の日のこと
続いてやってきたのは『専門知識修得科』
ここは、能力を研究し、それの活用法等を調べていったりするそうだ。因みに、この学科を選べば、就職先は時羽依頼所と決定される。
能力の研究といっても、あたしにはハッキリとはよく分からない。
どういうのをやるんだろう。そう思っていれば、視界にとある人物が入る。
「副会長と会長だ」
あたしがボソッと呟けば、ゆう君もそっちをの方を見る。
「あ、本当だ。2人は一緒のコースだったんだね」
2人で先輩たちを見ていれば、流石に視線で気づいたのか、会長が笑顔で手を振ってきた。それに副会長が気づき、こっちの方を見る。
「どう? コースは決まりそうかな?」
「俺は体育科にしようと思ってます!」
「おー、そうだねー西野君はバスケ部だったね。中学からいい成績出してるし、勿論知ってるよ」
会長にそう言われ、でへへとゆう君が緩んだ表情で照れた。めちゃ嬉しそう。周りに花が飛んでるように見えた。
そんなゆう君と会長に目もくれず、副会長はあっちゃんとげん君の方を見る。
「2人は? どうするの?」
「私はこの学科に入ろうと思ってます」
「俺もです」
「え?」
二人の言葉に、会長と話してたはずだったゆう君と、あたしの声が被った。
この2人は、この学科に入るんだ…。げん君は体育科の方を選ぶと思ってた。ゆう君と何かとセットだし、バスケ部だし。
驚いたのはあたし達だけでなく、会長も「へぇ」と声をもらす。
「東堂君は体育科を選ぶと思ったんだけどな」
「俺では向いてないと思いまして」
「えー! 何で何で! げんげんなんでー!?」
ゆう君がげん君の肩を掴み、ぐわんぐわんと揺らす。ちょっ、ちょっと激しくない? げん君眉間にしわが、あぁ…。
心配すると同時に、ゴンッと鈍い音が響き、ゆう君が地面に沈んだ。おうっふ…。撃沈…。
思わず口元に手を当てながら、同情の目で見ていれば、げん君は腕を組みながら言った。
「俺はお前と違って、プロを目指すわけでも、体育の先生になりたいわけでもない。この学科で、俺は自分の道を選ぶと決めたんだ」
「いや、分かってるって…。だからって殴らなくても…」
げん君とゆう君の言葉を聞きながら、あたしはあっちゃんの方を向く。
「あっちゃんは何でこの学科に?」
あたしが問えば、あっちゃんはあたしの方に視線を移し、ポツリと話し始める。
「この学科が、私の能力を活かすのに向いてると思ったからです」
「……」
「私の能力は、一般的な職に就けば、色々と問題が出ます。しかし、この学科でそして依頼所に進めたら、私は自分の力を他人のために使うことができる、価値があるんです」
あっちゃんの目が真剣なのは、言うまでもない。
きっと、あっちゃんはその能力で、過去にいろいろな体験をしてきたんだと思う。あたしには分からないような、過去があるんだと思う。それを経験したからこそ、こうして道が見えるんだろうな。
でも、
「あっちゃんがそうなら良いんだけど、少し寂しくない?」
「え?」
あたしがポツリと呟けば、あっちゃんは驚きで目を開いた。その様子を見て、思わず苦笑いを浮かべた。
「その言い方だと、あっちゃんはちょっと自分を過小評価しすぎじゃないかなって…。そんな、そこを選ばないと、価値がないみたいな…」
そんなことないと思うけどな…。
そう言えば、彼女はすこしポカンとした表情をする。それに慌てて両手を振って謝る。
「ごごごごめんね! 偉そうに!」
でも、
「でもね、そんな自分に意味がないような言い方は止めて? あたしも悲しくなっちゃう」
ヘラッと笑みを浮かべながら言えば、彼女は少しはにかみながら「ありがとう」と言ってくれた。そのことに、思わずもっと笑みがあふれる。
そんな様子を見ていたらしい、会長はニヨニヨと笑みを浮かべている。
「いやあ、友情って素晴らしきことかな、ってね。青春って良いねえ」
「黄蘭じいさん臭いわよ」
「うそっ! マジで!」
確かにジジくさかった。
そう思っていれば、ゴホンと会長さんが咳払いをする。そしてあたしの方を見た。
「どう? 北村ちゃんは何かつかめたかな」
「……どうなんでしょう。まだ能力を知ってまだ日が浅くて、自分はこれからどうしたいのかとかも分からない感じです」
第一、この学校に来たのは、親が進路を変えたからだ。それがなかったら、今頃あたしは普通の高校生で、まだ進路なんて悩んでなかっただろう。
学校が違うだけで、こんなに変わるなんて、思いもしなかった。
それがぶっちゃけた本音だったりする。
それを察したのか、会長さんが優しい笑みを浮かべた。
「ちょっとオレと話しようか」
「え、でも授業見学…」
「それは後々! ちょっと先生に許可もらってくるね」
そう言って、彼は白奈先生の方に行き、いろいろ説明をしてから、戻ってきた。
「授業見学は、取り敢えずこのあと全部見終わったあと、各自自由になるらしいから大丈夫だって」
「そうですか…」
「ほら、おいで」
そう言って会長さんはあたしの手を取って歩き出す。
「……」
「ん? どうしたの?」
「あ、いえ。なんか、」
懐かしい感じがして。
あたしがそう言えば、先輩は一瞬驚いた表情をしたけど、直ぐに「あぁ」と呟いた。
「こうやって異性と手を繋ぐのが久しぶりだからとか?」
「あー、そうかもしれませんね」
繋ぐの何歳以来かな。
なんて思っていれば、専門科(と皆略しているらしい)の校舎裏に着いた。そこには何故かベンチが置いてあって、そこに会長さんが座るようにと手を引かれる。
おうっふ、動作が紳士的だ。思わず羞恥心的に顔が赤くなる。
あたしが座れば、その隣に会長さんが腰掛けた。
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