「バリケードさんがいないと悲しいなあ」
「って思っただけなんですよ」



首に当たりそうな刃物にとても怖さを感じた。けれど、それよりも、目の前でそれを握り そして今までにないくらいの目色でこちらを睨みつけてくるあの人が不可思議でたまらない。あの人の手は私を傷つける刃物を握っていて、あの人の目は私を動かなくさせる感情を尖らせている。わからない。どうしてこうなってしまったのだろう。朝からの今日の一日を振り返ろうとして、けれどぐるぐると熱く回転する頭のなかにそんな余裕はないようだった。「何故だ」赤い目をしたあの人の声が耳にびいんと響く。幕が張っているみたいに、それは二三回ほど頭に繰り返された。「俺はお前を殺す」刃物が私のほうにほんのすこしだけずらされる。「お前だけじゃない。あの女も、プレイボーイ217も、それ以外のすべての虫けらたちも、全部根絶やしにする」押し付けられた刃物は 暴力的だと抵抗する肌を無視している。「なのに何故」ぷつっと切れた肌からなにかが首筋に伝っていくのがわかる。それと同じ色の目を持つあの人の声が震えていると、なぜだがそう思った。
「何故、悲しいなどほざくんだ、俺はお前らの敵だ、侵略者だぞ」
敵。侵略者。わけのわからない、それまでバリケードさんから聞いたことのなかった言葉が 頭をぐるりと回って戻ってくる。テレビのニュースでやっていた、エイリアンと言う言葉が どうしてか思い出される。わからない。わからない。「わかんない」全部がどうでもよくなったように口が開く。あの人の目がぐうっと凶暴さを増す。それでも震え上がることができない。「わかんないです、だって」じんじんと痛む皮膚の切れ目の下にある喉が震えて、声も同じように震える。それもこれも全部、目の前のバリケードさんを見るとどうでもよくなってしまった。

「私、あなたとずっと一緒に居たいって思ったよ」
「それだけじゃだめなの?」




(110828)



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