お味噌汁に必要なもの
・お豆腐
・まるく刻んだネギ
・ジャガイモ
・あじのもと



この前買ったらしい、隅っこに綺麗なレース模様が書くことに邪魔にならない程度に施してあるメモ帳の一枚。それ書かれた文字とにらめっこをする。「これさえあればばっちりよ!」と一番下に赤いボールペンで書かれた言葉に、私は心の内側でほとほとと息をつく。彼女はただ全部お鍋のなかに入れればいいと思っているのだ。機械化学業の忙しさにかまけて、きっとそれだけしか料理の仕方を学ばなかったに違いない。一応順番というものがあるのに。今度は本当にため息をはいて、ぶくぶくとすこしだけ沸騰しているお鍋に掛けていた火をぱちんと消す。小さなお皿で味噌特有の色を出しているスープをすこうしだけ掬って口に運ぶと、きちんと美味しかった。お母さんからスープ作りの秘訣は習っていたのだ。お味噌汁の作り方は習わなかったけれど。

「バリケードさん」

我が家にひとつしかないソファを全て陣取って眠っているその人に、教えてもらった名前で呼び掛ける。「バリケードさん、朝ですよ」「ご飯もできたんですよ」前に、肩をとんとんと叩いたらお皿が一枚犠牲になるほど怒られたので、あまり刺激を加えないように 声だけで起こす。二三秒間があって、もう一度声をかけようとしたとき 閉じられていた目がすこしの機械音と共にぱちっと開いた。

「おはようございます」
「…何の用だ虫けら」
「朝です。ご飯を食べましょう」
「いらん」
「エネルギーを補給しなきゃいけないんでしょう」
「…」

彼女から教わった事情を出せば、バリケードさんは舌打ちをしてソファから降りる。私はスリッパをぱたぱたと言わせながらお鍋の方へ戻り、作ったお味噌汁をふたつのお皿に分けると、バリケードさんはもう椅子に座ってこちらを見ていた。男の人の足ははやい。「いただきます」と私が手を組み合わせてお祈りをしているころには、バリケードさんはすでに味噌汁を喉に流し込んでいた。「なんで俺がこんな虫けら臭いことを」ぶつぶつぶつ。そういいながら食べている彼は、どう見ても人間だ。車になれるという話を聞いて「あんなでかい図体を車まで小さくさせられるんなら、人間になることだってできるわよねえ」といった彼女の提案により、一晩ほど頑張って組み上げたプログラムらしい。バリケードさんは気に入っていないらしいけれど、なかなかの格好良い男性なので 私はすこしだけどぎまぎとしてしまう。

「おいしいですか?」
「あ?」
「お味噌汁」
「別に」
「べつに?」
「…普通だと言っているんだ!」

がしゃん、と机が震えて音を出す。バリケードさんが机をぐうの手で叩いたのだ。私は少しだけ驚いてしまったけれど、お味噌汁がこぼれていないことを見て安心する。「それならいいんです」そのまま頷いてまたひと口スプーンで掬えば、バリケードさんは吃驚という顔をした。目がすこしまるうく開いている。なにか言いたそうだった。けれども結局なにも言わず、バリケードさんは黙々と味噌汁をすすっていた。ずるずるずる。お味噌の味をしたスープが舌にのっかる。うん、おいしい。


(110813)

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