ロボットが倒れていた。

それは家の前に倒れていた。日本アニメに出てきそうなくらい金属を組み合わせた体は、土だらけだった。人でいう脇腹のあたりが不自然にえぐれていて、ばちばちと電気を鳴らしている。変な音が聞こえたからと自宅の裏庭へスリッパをはいて出てきた私は、訳なんてなにも分からないまま聞いていた。「あなた、どうしたの」ロボットはぎこぎこと動かしづらそうに顔をあげた。閉じられていた目の奥が開かれる。赤い目だ。ぎろぎろとにらんでいるように感じる。「怪我、どのくらいなの、痛い?」触れようと手を伸ばすと、とたんに目がいっとう輝いて、私の目の前に腕が振られた。「わっ」思わずしりもちをついて、それを見上げる。睨んでいる様子は、先ほどよりつよくなっている。「私、あなたになにもしない」きっと腕が当たっていたら、私は大けがをしていた。それだけじゃすまなかったかもしれない。そう思って、すくみ上りそうな心があった。けれど、ロボットが怯えているように見えたから 必死に震えないよう声を出した。「なにもしないから、ね、だから」あんまり怖がらないで。ロボットは驚いたように目をぱっちり開く。怖さが薄れて、私がもう一度立ち上がって近づこうとする前に、ロボットは飛んで行ってしまった。すぐ近くの林のなかに。

「もしもし、ねえ、助けて」

私はすぐに電話をした。携帯を握る手が汗ばんでいたこと。それから、友人の怪訝そうな声。暗い林を駆け回って痛くなっていた足。それを鮮明に覚えている。「なに、どうしたの、息なんか切らして」「大変なの、ねえお願い。ロボットを治療してほしいの」「はあ?ロボット?」
友人は疑心に満ちた声をしていた。私がロボットなんか買ったこともカタログを見ることもなかったからだろう。「どれくらい?結構大きいの?」「大きい、とても大きい」「どれくらい」「家一軒」「はあ?」「はやく来て」ぶちっ。携帯の電源ボタンを押す。長い文章を書いているときには強敵になりうるこのボタンが、今は救いとなっていた。なんやかんやと聞かれるより、はやくきて治療してもらいたい。彼女なら喜んでなおしてくれるだろう。私は大きく鳴り響く心臓に携帯電話を押し当てながら、目の前で目をつむっているロボットを見つめて呟いた。ああ、神よ、どうか。



(110811)



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