ロベリア・ミーシックはNEST部隊に所属していたが、その基地には未だ行きなれていなかった。それが普通の軍事基地とは比べ物にならない程の大きさを持っていることや ロベリア自身あまり外出をしない立場にあるからだとか、様々な理由はあれど、なにより彼女がまだ部隊に所属して間もないからというのが大半の原因を占めていた。故に現場で働いている軍人たちと交流があるわけでもなく、状況はと言えば良くもなく 悪くもない。半分半分というところだ。そんななかに将軍直々のお呼び出しがかかってしまったのだから、彼女の心はあまりいい気分をしていなかった。黒縁の眼鏡をかけたおすまし顔をしているが、内心ではすぐにでも自分の家に帰りたくてたまらなかった。しかし、今回の仕事はかなり大事になるかもしれないと報告を受けたのだから、そうはいかない。ロベリアは仕事をきちんと熟すことに定評のある 言うなれば有能な人間であった。だからこそ彼女は若くして高い立場に立ち、渋々と基地へと出向いていた。
「今日のスケジュールはこれで終わり?」
「ええ、加えてその後しばらく休みが続いています」
「そう。よかった」
秘書である青年の報告を聞きながらロベリアは背もたれに体を預ける。秘書は彼女と同じく、新しく秘書に任命された青年だ。ロベリアは青年に対してもあまり交友を図れていなかった。そもそも青年自身、仕事以外のことを口にしないのである。ふたりの間にはよく沈黙が訪れた。それは彼女にとって気まずいものだった。ロベリアは自分の家へ帰り、休息を取りたかった。だからこそ、今回の呼び出しがただの勘違いであるように願っていた。民間人二名がディセプティコンと関わりがあるかもしれない などという報告を、彼女は信じたくなかった。







「前に一度、我々と同じような体を持つ者と接触したことは?」
カフィは衝撃を受けていた。その言葉の意味を、瞬間の間だけ理解できなかったほどに、彼女の思考はその言葉を受け止めていた。ゆっくりと俯かせていた顔を上げ、オプティマスを凝視する。同じような体。彼はオプティマスほど大きくはなかったが、しかし同じような体と言えばそう言えるのだろう。ロボットの体だ。彼女のなかにある彼の姿は、一人の男の姿をしていたが けれども最初に彼を見つけたときのことを思い出すと、それは頷くべき事柄であった。会ったことがある。会うどころか、数週間ほど衣食住を共にしたのだ。数秒ほどで理解したとき、自分の心臓が、だんだんと色を付けて鼓動し始めるのを彼女は痛いほどに感じていた。それは高揚の色をして息づき、耳の裏からその息吹を彼女の頭へと聞かせていた。あの人のことを知っているんですか。いまどこに居るか知っていますか。彼女はそんな疑問をオプティマスに投げかけたくて口を開いた。しかし、それは寸前のところで止められた。オプティマスの向こう側から、かつかつとヒールの音が大きく響いてきたのである。彼女もレティも、そしてオプティマスもそちらを見る。そこにはレノックスと、足早にこちらに歩いてくるロベリアがいた。ロベリアはオプティマスに一礼をし、ふたりの元へ来ると 眼鏡をかけなおし、またひとつ一礼した。
「NEST部隊機密情報管理部のロベリア・ミーシックです。NBE…いえ ディセプティコンと接触した可能性のある少女二人というのはあなたたちのことですか」
「なにあんた。突然来てなに言ってんのよ」
レティが薄めていた警戒心をあらわにする。ロベリアは構わずにオプティマスへ目を向け、確認を取った。オプティマスが静かにうなずくと同時に、カフィは嫌な予感をようやく掴み取った。それからすぐにレティの手を引っ張り、後ろに向かって走ろうとした。しかしそれよりはやく、彼女たちを後ろから拘束する手が伸び、一切の行動を出来なくさせる。カフィは驚きながら、腕を捻られてつかまれる痛みに顔をしかめた。レティは拘束という粗末な行動にとられたことに怒り、怒鳴っている。「国家の安全のため、あなたたちに幾つか聞きたいことがあります。ご協力ください」冷静にそう言い放つロベリアを彼女は悲痛の目で見つめていた。連行されようとするなか オプティマスを振り返ったが、なにも声に出来なかった。



(110920)