一方その頃の辰巳――…
「ふー…。とりあえず…大丈夫だよ‥な」
さっきはびっくりした。
僕は知ってるから…
真里亞の想っていた人も、急に留学させられた意味も…。
多分、真里亞の想い人のことは皆知ってるだろう。
真里亞の様子とか、いつも保険室に通ってたこととかで。
けど、留学の理由までは知らないと思う。
いや、思いたい。
あんな…理由……――――
8年前――真里亞の留学が決まった日
真里亞から留学の話を聞き、あまりにもぶっ飛んだ話だと
会長に抗議をしに行った。
「おい……会長様…何で真里亞が…っ」
「あれ、辰巳?久しぶりだね」
「…な…に……しれっとしてんだよ!」
真里亞の留学が決まったと言うのに、落ち着いている会長の表情に怒りが湧いた。
「……なに?」
「なにじゃねぇよ!お前!!……お前っ…真里亞が‥好きなんじゃなかったのかよ……」
会長は先程までの作り笑顔を崩し、表情を無くす。
「………それで?」
「それでって……お前……」
「…やだなぁ辰巳。そんな言葉使い、キャラじゃないよ?もっと落ち着いて冷静に話すのが部長さんの君でしょ?」
会長はクスリと笑うと、また先程の作り笑顔に戻った。
「…………会長様……まさか…あんたが…」
冷静すぎた。
会長が真里亞に想いを寄せていたのは知っていた。
会長が……自ら僕に相談して来たからだ。
会長が、どれだけ真里亞を大切に想っているか、知っていた。
だからこそ、信じられなかった。
その時の会長の反応、表情、言葉、何を取っても少し前までの会長からは想像もつかない姿だった。
「…んで………」
「?」
「…なんで……ッ!…何があったんだよ!会長様!」
少し驚いた表情の会長。
少しの沈黙。
そして会長はポツリ、ポツリと話始めた。
「……………何って…君も知ってるだろ…?」
「……何を…」
「……真里亞の想い人を。」
「……っ」
血の気が引いた。
その時の会長の表情が、余りにも恐ろしくて。
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