すでに酔いが回ってソファの上でいびきをかいて眠っているガイ先生に寄り添ったフジは静かに窓に向かっていた。
外は穏やかな新月の夜だ。
もうすぐ初めての結婚記念日が来る。
何をしようか。
考えるだけでも楽しくて、口許が緩むのを止められない。


「好きよ、ガイさん。貴方を愛してる」


彼にも聞こえないような声でフジは呟く。
フジの救世主。
世界で一番愛している人。
絶望のどん底にいたフジを救ってくれたのだ。
二度と忍としてはやっていけない身体になって、目標にしていた上忍にもなれなくて、悲しみにくれていた。
そんなフジの前に現れたのが、彼だったのだ。
その明るさに、優しさに、厳しさに救われた。


ーー忍者でなくなってもお前はフジだろう?


そう言って、親指を立てた手を前に突き出して笑った。
リーが言う“ナイスガイのポーズ”だ。
だから、彼の側に痛いと強く願うようになった。


「貴方がいてくれたから、わたしは生きる希望を持てたのよ」


だらしなくソファから投げ出された手を握って、フジはその手にそっとキスをする。
同期であった忍はみんな中忍になったり、上忍になったりしている。
自分だけがかやの外に出されたような気持ちになったことも実際にある。
死を選ばなかったのはガイ先生がいたから。
懸命にフジを愛してくれる旦那様がいたから。
今の自分がいるのは全てガイ先生のお陰だから。


「う〜〜ん……」


手の甲にされたキスに気づいたのか、赤ら顔のガイ先生がぼんやりとフジを見つめている。
さすがに飲み過ぎだ。
唇の形だけで、普段は言えない気持ちを伝える。
彼に伝えたいけれど、恥ずかしい。
だから、酔っ払っている彼に伝えるのだ。


「あいしてる」


幼妻ちゃんと魔法の言葉


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