もう桜が咲く時期だというのに空気は木枯らしのようなつめたさをまとっている。フジが待ち望んでいた季節はどうやらまだ足止めをくらっているようだ。
「なかなか暖かくならんなぁ」
「そうね。寒いのは嫌いだけど、ガイさんが家にいてくれるからそこは感謝しないとね」
「しばらくフジの班も活動はなさそうか?」
「うん。他の二人が学びたいことがあるからって。私も修行してるからなおさらね」
今にもくちびるが触れそうな距離でフジとガイ先生は寄り添う。今まで離れていた分を取り戻すように肌を寄せ合い、寒さから逃れるように。
彼の弟子たちに邪魔されないで過ごす時間はとても貴重で、穏やかに過ぎていく。本当はもっとたくさん一緒にいたいけれど、わがままを言ってガイ先生を困らせたくなかった。リー達との時間を大切にしていることはフジもよくわかっているから。
「それって寂しいけど、素敵なことだと思うの。みんなそれぞれにやりたいことを見つけたってことだから」
「そうかもしれんなぁ、だがフジ。お前は何かやりたいことはないのか?」
「私のやりたいこと?」
ガイ先生からの問いかけにフジは考える。やりたいことって何だろう。
たくさんの経験はしてきた。おおよそ他の忍は経験したことがなさそうなことまで経験して、さまざまな事情から一時的に前線を退いたこともある。けれど、もう一度こうして強くなりたいと前線に戻ってきたのは他でもなく、大好きな木ノ葉隠れのためだと思う。
新たに芽吹く木の葉を摘み取らないためにもフジは今後も忍として生きていくのだろう。その隣にはガイ先生がいて、周りにはリー達がいると信じてやまない。
「何かしら、私のやりたいこと…」
「以前、茶屋を開きたいといっていたが、あれはどうなんだ?」
「うーん、そうね。お茶屋を開くことは今でもあきらめられてないけど、少し違う気がするの」
考えると本当にやりたいことは何かわからなくなってきて、ますます考え込んでしまう。どんな選択をしてもガイ先生がそばにいてくれることはわかるのに、その選択をどうしていいのかわからない。答えがわかっているのに、それに至る過程がわからない気分だ。
「やりたいことはわからないけど、これから見つけていけばいいと思うわ。これからもいろんな経験をしていくだろうし」
フジはここで早急に答えを出すことをあきらめることにした。急いでも何もいいことはない。じっくり考えてその中で強く願ったものがフジの本当のやりたいことなんだろう。
これからの長い人生で、ガイ先生と見つけていくことが当面のフジのやりたいことだ。
「私のやりたいことはこれからもガイさんと生きていくことよ」
「フジ…」
「だって、私が一番辛い時期にガイさんは一緒にいてくれたでしょう。だから、私はガイさんとこれからもずっと生きていきたいわ」
フジはそう言うとガイ先生のほおにくちびるを寄せる。高潔で美しい魂を持っているこの人と生きていけるとおもうだけで、胸が震えてたまらない。この人とならば幸福に死んでいくことが出来そうで、その先もまた幸福であると思えるから。
やりたいことも生きていくことも全部ガイ先生と一緒に見つけていきたい。どんな困難も二人ならば乗り越えられる気がするから。
この人とならばきっと、と。

幼妻ちゃんとひだまり


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