「ねえ、見てガイさん」
「ん?」
二人でようやく取れた共通の休日。
二人で過ごせる日には午前中にフジの車椅子を押して、ガイ先生は里内を散歩する。何の予定もない美しい日に出歩けることは嬉しかった。
第三班の仲間達も与えられた休暇を満喫するように二人の邪魔をすることはなかった。最近は特にリーにかまけてばかりで相手をしてくれなかったから、フジも寂しい時間を過ごすことが多かった。
忍でなくなり、一般人としての生活に慣れてきたものの夫が忍である以上平穏な生活はしばしフジに訪れることはなさそうだ。
そんな貴重な日に道端で咲いていることを見つけたコスモス。淡い桃色の花びらを精一杯に広げて咲いた可愛らしい花にフジは微笑みを浮かべる。
「コスモスだわ。きっとどこからか種が飛んできたのね」
「確かに花屋からは離れているし、誰かが植えようと思って植える場所でもないからなぁ」
フジの車椅子から手を離し、コスモスの前に屈むガイ先生。花びらを傷つけないようにコスモスを一輪摘むとフジに渡してくれた。
「ありがとう、ガイさん。とても綺麗だわ」
「あー……その、つまりなんだ。最近一人にしてばっかりだったからな…」
恥ずかしそうに頬かくその姿がなんだか可愛らしくて、フジは彼の方に手を伸ばす。誰よりも努力家で優しいこの人はとことん不器用で、フジを大きな愛で包み込んでくれる。
「フジ?」
「ガイさんを抱き締めさせて。わたしがいつも抱き締められてばかりだもん」
少しぶすくれたように言うとガイ先生はきょとんとした顔をしてフジを見つめた後、声をあげて笑いだした。つられるようにフジも声をあげて笑う。
道行く人々が何事かとこちらに視線を投げるが気にならない。今はガイ先生がいとおしくて忙しいのだ。誰に視線を向けられようとも気にならない。
「ハッハッハッハ!!!まったくフジには敵わんな」
「アハハハッ!!そうよ、貴方の妻だもの。だからお願い」
もう一度抱き締めさせて、とおねだりをするとガイ先生は仕方ないな、と肩をすくめてフジの腕の中にすっぽりと収まった。
わたしより10歳以上は年上なのに守りたくなる。ずっと彼と暮らせれば何もいらないのに。
「ふふ、ガイさんあったかい」
「フジも温かいな」
「えぇ。ねぇ、ガイさん」
「何だ?」
「帰りに甘栗甘であんみつ食べてから帰りましょう?」
ね?と甘えるようにねだってみせれば、ガイ先生はぐぅ、と喉の奥を鳴らした。赤くなった顔を背けてフジの腕の中から逃れようとする。
「わかったからそろそろ離してくれんか…フジ。視線が痛い」
はっとして辺りを見ると第三班の仲間達の視線がじっと突き刺さっていることに気付いてフジは慌ててガイ先生を解放した。
「ご、ごめんなさい…」
「ほんっとに仲良いわね……」
「いいじゃないですか、ガイ先生!」
やいのやいのと言い出すテンテンとリーにフジは顔を赤くする。立ち上がったガイ先生も負けず劣らず顔が赤い。
「おしどり夫婦って訳ね」
「っ〜〜!!」
テンテンに茶化されてフジはますます顔を赤くする。そこまで言わなくてもいいのに!
「ガイさん……」
「……帰ろうか」
弟子達に言われてさすがに恥ずかしくなったのかガイ先生も立ち上がりフジの車椅子を押して甘栗甘にも寄らずに帰途についた。その日の夕食はいつにもまして豪華だったことは二人だけの秘密だ。

幼妻ちゃんとコスモス


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