ガイ先生はフジの小さな世界の中で王様のような存在だった。
絶対的で一番愛する人。
車椅子で過ごすようになってから、ずっと隣にいてくれた人なのに弟子達のことになるとフジを放ってどこかに行ってしまう。
その間、フジは独りぼっちで部屋で待ち続けなくてはいけない。誰もいない家で寝起きをして、家事を済ませ、一人で食事を取る。
両親が忍であったこともあり、そういうことには慣れているつもりだったがガイ先生と結婚してから一人が辛くなった。
人の温かみを知ってしまったら、戻れなくなるのだと強く感じる。だから、何も知らないフジに戻ることはできそうになかった。
無知で子どものフジではなく、もうガイ先生の妻であるフジは一人が辛くてたまらなかった。
けれど、ガイ先生が忍である以上それを止めることはできなくて少し悔しい。
ガイ先生はフジだけのものではないから。


「ガイさんの嘘つき」


ぽつりと漏れた本音は誰に聞こえることもない。フジの声は空気にほどけただけだった。
今日は一緒にいようって言ってくれたはずなのに。
でも、仕方ないと分かってはいる。
ガイ先生はじっとしていられる人ではないから、きっとこうなるとどこかでは分かっていたのだ。
フジは物分かりの良い妻を演じていたいだけなのかもしれない。
ガイ先生が自慢できる奥さんでいたいから、と見栄を張っているだけなのかもしれない。


「あれ、ガイいないの?」

「カカシさん!?」


玄関の前に立っていたカカシに驚いて顔をあげれば、いつもの笑顔でどーも、と挨拶を返してくれた。


「ガイさんなら留守ですよ。リーさんと出掛けちゃって」

「また出掛けたの…今日はフジとゆっくりするって言ってたのにね」


あーあ、とため息をつくカカシにため息をつきたくなったのはフジも同じだった。
約束を反故にされたのはこれが初めてではない。いつも、フジとの約束は後回しになりがちだから。
いつも優先されるのは弟子達の修行だ。
それだけ弟子思いであるのだろうけど、フジは少し寂しい。
自分にも構って、ほんのちょっとで良いから気にかけてほしい。


「フジ、これからサスケ達と修行するんだけど、一緒にくる?」

「え、いいんですか?」

「ま!ガイもいないし良いんじゃない?」


フジは自分を置いていくガイ先生が悪い、なんて言い訳してカカシに連れて行ってもらうことにした。

幼妻ちゃんと独占欲


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