うっすら降り積もった雪を眺めていたフジはこちらに向かって歩いてくる人影を見つけた。
特徴的なシルエットから誰なのかすぐに判別できる。夫の愛弟子ロック・リーである。


「ガイ先生〜」

「おはよう、早いのね」

「あ、フジさん!おはようございます」

「ガイさんならまだ寝てるわよ?」

「そうなんですか…」


フジは微笑んで、リーを迎えた。
夫を尊敬しているリーは服装から髪型まで同じだ。
食卓の椅子に腰掛けたリーにほうじ茶を出して、フジはリーの向かいに車椅子を止めた。
リーはフジより一つ年上のはずなのに、敬語を使って話してくる物腰穏やかな青年だ。それなのに、忍術を使えないために体術を極めた珍しい忍者でもある。


「フジ、誰か来ているのか…」


のそのそと寝室から出てきたガイ先生が大あくびをする。
寝起きが悪いのはいつものことだ。
フジはくすくすと笑いながら、車椅子を操作してキッチンに向かう。煎茶をいれるのが朝の日課なのだ。
ついでにリーの分も入れて出すと、すみません、と律儀にお辞儀をした。


「朝早くからすみません、ガイ先生」

「いや、構わんが何かあったのか?」

「テンテンと修行をしようという話になりまして、ガイ先生も宜しかったら」

「そうか、なら支度をしてこよう。フジ」


ガイ先生は申し訳なさそうにフジの方を見る。今日はゆっくりしようと言っていたが、出来そうにない。


「わたしのことはいいから、気にしないで」


物分かりのいい振りをしてフジは微笑んだ。
本当は二人の時間が欲しいし、もっと一緒にいたい。
仕方のないことなのだ、と自分に言い聞かせる。
それは承知の上でガイ先生と夫婦になったのだから。
けど、物分かりの良い女ならどれほどよかったか。
フジも人並みに寂しいという感情は持ち合わせている。
正直さみしいのだ。


「じゃあ、行ってくる」

「うん、気を付けてね」


いつもの挨拶を交わしてガイ先生を見送る。
この瞬間はいつも嫌だ。
ガイ先生は自由に動けるのにフジは車椅子がなければ動くことさえできないから。
自分が恨めしい。
そして、ガイ先生を独占できるリーが少し羨ましかった。


幼妻ちゃんと愛弟子くん


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