つぷり、と耳に穴が開く感覚が背中を粟立たせる。
「痛っ…」
「我慢しろ、すぐ終わる」
耳たぶではなく軟骨を貫通する痛みに慣れることは絶対にないとマナヅルは思う。それから差し込まれる棒状のピアス。留め具を嵌めればそれは完璧にマナヅルの一部になる。
角都から与えられるピアスはこれで何個目だろう、とぼんやり思う。両耳には今開けられたものを除いて、六つのピアスがついている。いずれも任務には差し支えないものだと角都は言う。だが、正直これからもっとたくさん開けられると思うと気が重い。
耳だけではなく、マナヅルの体の至るところにはピアスがついている。舌、唇の下、へそ、それからあらぬ場所にも。全て角都に開けられたもので、自ら望んで開けたところは一つもない。
だが、嫌悪感は全くなく、むしろそれをすんなりと受け入れている自分がいる。角都から与えられるものは何だってマナヅルは嬉しいのだ。
「こっちはすっかり定着したな」
耳を撫でていた角都の不埒な手が下に降りてきて、服の下に侵入してくる。
かさついた指先が触れるのはその前に開けられたへそのピアス。開けた当初は痛みが酷かったものの、喉元を過ぎればなんとやらで今は痛みも感じない。角都が触れる場所が温かい。
角都の手のひらはとても優しい。痛みを与える時はピアスを開ける時、それから怒った時だけだ。マナヅルに触れる手は傷つける意図を持たない。どこまでも慈しむように優しく静かに触れてくるだけだ。
珍しく凪いだ声を吹き込まれて心臓がうるさく跳ねる。角都の声はどんな音であってもマナヅルを幸せにしてくれる。
「ふふ、くすぐったいよ」
「次はどこに開けてやろうか」
耳元で囁かれた言葉にマナヅルの鼓動が早くなる。角都の手が彼女のふくらみに触れていたから。まだそこにピアスを開けてはいなかった。その先の行為さえも思い出してしまう。
「かぁくずが開けてくれるならどこでもいいよ」
「本当にここに開けるぞ?」
「いいよ。見せる相手、かぁくずしかいないもの」
ふふ、と笑えば角都の顔がわずかに赤くなるのがわかる。褐色の肌をしていて少し分かりにくいがよく観察していればわかる変化だった。
「本当に貴様には敵わんな」
「わたしだって角都に敵わないよ」
角都の腕のなかで方向を変えて向き合う形になる。大好きな松葉色の瞳が不思議そうにぱちぱちと瞬いた。
それから大きなため息をついて、角都はマナヅルの唇の下のピアスに触れる。彼が初めて開けたピアスだ。
それから何個も個数を増やして今の個数になっている。これからも増えていく気がしてならない。ときめきと幸せが止まらない。
「このピアスは変えないのか」
「変えないよ」
即答したマナヅルに角都はくつくつと喉の奥で笑う。そう答える理由を角都は知っているのだ。
「俺が最初に開けたピアスだから、か」
「もちろんだよ!」
唇の下にピアスを開けられようがあらぬ場所にも開けられようがマナヅルは角都が好きだ。
それ自体が角都の愛の証であることを知っているから。長く生きてきた角都は別れと死に長く親しみすぎた。感覚が麻痺しているのもあるのかもしれない。他人の心臓で生きているから、というのもあるのかもしれない。
独占欲を向けられるのは悪くない。とても心地がいい。木ノ葉隠れの里のなかには居場所を持たなかったマナヅルが、誰かに愛されるという出来事は奇跡のようなものだった。
「ねぇ、かぁくず」
「何だ」
「もっとピアス開けてね、角都の理想の女の子になりたいから」
全ては愛しい人のために、あるいは自分の優越感のために。どんな痛みさえも受け入れていくつもりだ。

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