ある任務から角都と飛段が戻ってきて、マナヅルは真っ先に角都に駆け寄った。いつものようにお帰りなさいを言うためである。今回は比較的軽めの任務だったようで、二人とも無傷だ。
「お帰りなさい!」
「あぁ」
にこにこと駆け寄ったマナヅルの頭をぽんぽんと撫でてくれる手はやっぱり温かい。大好きな角都の手はいつだってマナヅルを笑顔にしてくれる。優しい優しい大好きな手だ。
「土産だ」
短い言葉と共に渡された小さな瓶。中には色とりどりの星の形をした砂糖のかたまり。マナヅルが大好きな金平糖だ。瓶の口には桃色の組紐が結ばれていて、かわいらしい。
「帰ってくる途中の露店で角都が買ったんだぜ、それ」
「角都が買ったの?」
「誰も思わねーだろ?角都が金平糖買うなんてよ」
飛段がゲハハ、と笑いながらマナヅルの額をちょん、と突く。本当に楽しそうに笑った赤紫の瞳が三日月を描いた。
「それだけテメーに惚れてるってことじゃねーの?」
「黙れ」
相方の過ぎたおしゃべりを一喝する。よく見ると目元が少し赤い。照れている証拠だ。
「ありがとう、かぁくず」
お礼を言えばますます目元を赤くして、そっぽを向いてしまった。お土産何て滅多にくれるものではないし、しかも露店で角都が金平糖を買ったというのだから驚きだ。デイダラやサソリが聞いたら一週間は笑っていそうな話である。
「風呂に入ってくる」
そう言い残して角都は奥にある浴室に引っ込んだ。飛段もそれを追い掛けて行く。
二人が帰ってきたのを見届けたのだから、今日のマナヅルの任務は終了だ。自分の部屋に戻り、角都がくれた瓶を眺める。そしてあることに気づく。瓶に透かし模様が入っているのだ。桜の模様が無数に。
「きれい…」
くるくると瓶を回して眺めながら、ふと思う。角都はどんな顔をして金平糖を買ったのだろう。お世辞にも優しい顔とは言えない。それに声も少し威圧的だし、他人に対する態度はきつい。しかも、守銭奴の角都がものを買ったのだ。考えられない。恐らく、その露店の中では一番安いものだっただろうが、角都がお金を使うこと自体珍しい。天変地異だ。
「食わんのか」
「わっ、びっくりした!!」
不意に頭上から降ってきた声に慌ててそっちを見る。バスタオルで髪を拭きながら楽しげにマナヅルを見ている。
「食べるよ?でも、なんかもったいない気がして」
「もったいない?食わんともっともったいないぞ」
「せっかくかぁくずが買ってくれたんだよ?食べたらなくなっちゃうじゃない」
お前の基準はわからん、と言いながら角都はマナヅルの隣に腰を下ろした。脚衣だけを身につけたその姿はとても色っぽい。普段は背中しか露出していない上半身が露になって目の毒だ。
「食わないならもう買ってこないぞ」
「え、それはやだ!…せっかくだから、一緒に食べよう?」
「俺が甘いものを食わんのは知っているだろう」
せっかくのお願いも一刀両断にされて、マナヅルは肩を落とした。任務で角都は疲れているのはわかる。マナヅルも明後日からは任務に就く。そうしたら、またしばらく会えなくなる。これが最期になる可能性だってある。
仕方なく栓を開けて黄色の金平糖を一つ口に入れる。こりこりと噛み砕きながら、金平糖の甘さを堪能する。こんなに美味しいのに、と心のなかで呟く。
「ふてくされても食わんぞ」
「知ってるよ…」
はああ、と大きなため息をつきながら角都は髪の水分を拭き取る。長い髪の角都は何か新鮮で、チラチラ見える唇がとても扇情的だった。思い付いた。角都に金平糖を食べてもらう方法が浮かんだのだ。
瓶を傾けて金平糖を二つ出す。きらきらしている可愛い星達を口に入れる。すっかり油断している角都の肩に手を乗せて、何か声をかけられる前に唇をふさいだ。驚きに見開かれる瞳が可愛い。
「んっ…」
舌先で角都の唇をノックして、わずかに開いた隙間から舌を差し込む。金平糖は計画通りに角都の口のなかに転がり込んでいったのがわかる。
唇を離すと、眉間にシワを寄せた角都と目が合う。こりこりと軽い音を立てながら金平糖を噛み砕く様子がおかしい。
「マナヅル…」
「だってこうでもしなきゃ食べてくれないでしょ?」
そう言ってからもう一度角都の唇をふさぐ。後頭部に手を回されて、逃げ場をなくす。角都の熱い舌が割り入ってきて、マナヅルの心臓は忙しく脈打つ。
今度は意識も飛ぶような甘くて素敵な口づけをしてくれるに違いない。

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