緑が深く、夜の静けさを抱えた森。生い茂る葉の色はどこか角都の瞳を思わせる。深い色をした彼の瞳はいつも状況を冷静に分析し、確実に人柱力を捉える。けれど、マナヅルを見つめる瞳はいつもやわらかい。

夜中に目が覚めてしまい、自然と目線が角都に向く。焚き火の向こうで目線を落としている彼はいつ見てもどっしりと構えている。
「早く寝ろ、明日も早く動くぞ」
「……うん」
寝ずの番をしていた角都がこちらを見て問うて来る。ビンゴブックを眺めていたらしく、それを閉じてから立ち上がる。
布団がわりに掛けていた上着を羽織り、マナヅルは角都の隣に座る。その体温が隣にあるだけで、漠然と抱えていた不安が解れていく気がした。
イタチから告げられた万華鏡写輪眼の副作用。少しずつ視界が奪われて、最終的には全ての光が奪われる。初めから失われることが決まっていた光なら、なぜこの力は与えられたのか。
うちは一族に生まれたから引き継いでいておかしくない瞳術ではあるけれど、マナヅルにはこの力は重すぎた。写輪眼は誰かを守るための力ではなくて、誰かを傷つける力であると知ってしまったから。
「かぁくず、もし写輪眼が使えたらどうする?」
「写輪眼? それはうちは一族の血継限界だろう。……急にどうしたんだ」
「天照を使うようになってから、少しずつ目が見えなくなってきているの」
天照を使った後に必ず襲われる激しい頭痛。その後には視界が霞む。少し休めば良くなるけれど、最近その休む時間が長くなってきている。
「私、怖いの。目が見えなくなったら、かぁくずのこと、見えなくなっちゃう」
「それはオレにはどうすることも出来ん」
「だ、だよね。変なこと言ってごめんね」
「……まったく、お前というやつは…」
大きなため息。呆れられてしまったようで、マナヅルは視線を自分の手に移す。写輪眼も何も持たない自分だったなら、こんなに怖がる必要もなかったのに。
大きな力は時としてひどく臆病にさせる力がある。
「天照に頼らない戦い方を見つければいいだけの話だろう。幸いお前には火遁も口寄せもある」
「……でも」
「何のために同行しているツーマンセルだ。オレ達やイタチは何のためにいる」
「……ええと、私を監視するため?」
「それもあるが……」
「あいたっ!」
また、大きなため息を一つついた角都はマナヅルにデコピンをする。ぱちんという小気味いい音を立てた額はじんじんと痛み、思わず手で押さえる。角都のデコピンは誰のそれよりも痛いのだ。
何のためのツーマンセルか。マナヅルが持つ答えは明白だ。互いを監視して、裏切らないようにするため。あるいは逃亡した際に始末するため。
マナヅルが彼らに同行するのも同じ理由だ。彼らを監視し逃亡を防止するため。けれど、彼らと戦うことで一人では倒せない相手にも勝利したこともある。
「互いにないものを補うことが出来るだろう。オレは不死身ではないが、飛段は不死身だ。オレならば、あのバカをサポート出来る」
角都の目線の先にはいびきをかいて眠る飛段がいる。いつ見ても気持ちいい寝顔をしている。悪夢にうなされることの多いマナヅルとは正反対だ。
「…だから、その、お前にしかできないサポートもあるだろう」
「!」
写輪眼を使わない戦い方はマナヅル以外でも出来るけれど、彼女にしか出来ないサポートもある、と角都なりに励ましてくれているのだと気づいた。不器用な優しさでいつだって守ってくれることはわかっているけれど。それでも、失明の恐怖を角都が和らげてくれたことはたしかだった。
いつか光を失うかもしれないという恐怖はマナヅルを不安にさせた。角都やイタチ、デイダラ、大好きな仲間達の顔を見れなくなるのかとどうしようもない恐怖に襲われた。
「角都、かぁくず……」
手を伸ばして頭巾と口布に覆われた顔に触れる。この人がいなければきっと不安と恐怖に押しつぶされてしまっていた。温もりと肌の質感が手のひらに触れる。見えなくてもこの感覚ならわかるだろう。
「見えなくなったらオレがお前を殺してやる」
「ほんと…?角都が私を殺してくれるの…?」
低くおどすような声で囁かれる言葉。それはマナヅルにとって救いに他ならない。見えなくなったら角都が殺してくれる。
「だから、オレ以外のやつに殺されるな。お前を殺すのはオレだ」
「うんっ……だから、もっと強くなりたいの、角都…」
角都の言葉に涙が溢れてくる。視界がにじんでぼやけた角都を映す。
見えなくなっても角都ならわかる。その仕草と足音、声、空を切る音、すべてで角都だとわかる自信がある。そんなことしか誇れないけれど、マナヅルは角都のことが好きだ。
「明日からまた修行をつけてやるから泣くな」
「うん……私強くなりたいの。角都、おねがい」
角都に修行をつけてもらえるとわかっただけで強くなれそうな気がして、マナヅルはこくりと頷いた。
見えなくなる恐怖と角都の不器用な優しさ。暁で戦っていくことは簡単なことではないけれど、それでも大好きな仲間達といるためになら努力は惜しまないつもりだ。ずっと彼らといるためならば。

2021.8.15
角都お誕生日おめでとう。

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