幽助の家で面白いモノが見れる。という話を聞いた私たちは、学校帰りに浦飯家にお邪魔した。
ドアをノックして幽助の部屋へ入る。
「わっ!」
目に飛び込んできたのは、所狭しと並べられた品々だった。カラフルで、不思議な形をしたものばかりだ。
「へぇ、これは凄いな」
まるでおもちゃ箱に迷い込んだかのようだ。だからつい、私も蔵馬も子供のような心境になってしまう。
「いらっしゃい、待ってたよ!」
部屋の中央に居たのは笑顔のぼたんちゃんだ。
「あれ? 幽助は?」
部屋を見回しても幽助の姿は無い。私たちを誘った張本人は何処に? という意味を込めて尋ねると、
「え、えーとね、さっきまで居たんだけどさ。すぐ帰ってくるよ、あ、あはは」
いつもと違う様子の彼女に首を傾げるが、幽助はきっとお手洗いか何かで一時的に席を外しているのだろうと考えた。玄関で迎えてくれた温子さんは、部屋に居ると言っていたから。
「それにしても想像以上の数ですね。手にとっても?」
蔵馬も同じ考えに至ったのか、幽助を待っている間に、といより、彼も大いに興味を引かれ、気が急いているのかもしれない。一見しただけでは使い方の分からないモノばかりの、霊界七つ道具の試作品に手を伸ばした。
今回の会合は、霊界で作成された不思議な道具を扱う彼女に、いつかきちんと見せて欲しいと頼んでいたのが実現したのだ。しかも七つ道具だけでなく、技術開発局が手掛けた試作品まで披露してくれるという大盤振る舞いの展覧会となる――ハズだった。
「も、もちろんさ。でも気を付けておくれよっ!」
「え?」
自分の目の前にあった、玩具のような銃に触れる直前、動きを止めてぼたんちゃんを見た。気を付けてとは? 彼女を見ると、睨めっこをしているワケでもないのに、とても面白い顔をしていた。ああ、あれだ。ムンクの「叫び」。あの絵によく似た顔をしてる。
「ん?」
腰に衝撃を感じた。そちらを見ると子供が私にしがみ付いており、小さな頭のつむじが見えた。
いつの間に部屋に子供が? との頓珍漢な感想を持つ前に、もしや、と嫌な予感がした私は子供の頬を包んでそっと持ち上げた。
「……もしかして、蔵馬?」
推定3歳程の彼は、大きな目を僅かに潤ませ、コクリと頷いた。
11.どうしようこの人かわいすぎる
目の前の子どもには見覚えがあった。最近ではない。10年以上も昔にだ。私と蔵馬は幼馴染同士であるから、一緒に大きくなった。小さな頃の記憶ではあるが、アルバムで何度も見た顔だ。だから間違いなく、目の前の幼い子供が彼だと言い切れる。
それにしても、なんて可愛いんだろう!
また会える日が来るとは思わなかった!!
思わず抱きしめた。可愛い可愛いと連呼し、頬ずりする。そんな私を止めることなんて誰にも出来ない! と、暫く我を忘れて小さな彼を愛でていたのだが、
「ご、ごめんよぅ。まさか、二つも欠陥品が混じっていると思わなくて……」
ぼたんちゃんが謝罪を述べだしたので、そちらを向いた。
「二つって?」
気になる単語を聞き返す。彼女の言う欠陥品の一つは、蔵馬の試した品だろう。もしかしてコレだろうか。と、彼の腕を持ち上げた。そこには先程までの彼が身に付けていなかった、半透明な深緑の腕輪がはまっている。はた目には高価な翡翠の腕輪のように見えるが、ただの腕輪ではないのは明白だ。
「あ、あと一つはね、実は幽助が「ぼたん! 言うなって言っただろ!」」
イキナリの大声と、クローゼットがドンドン! と音を立て始めたものだから、驚いて跳び上がった。
「え? もしかして幽助、そこにいるの? でも今の声って……」
「ちくしょう!」
勢いよくクローゼットの扉が開かれた。
「何が起こったんだ!? おい、ぼたん! しばらく待ってみたけど、ちっとも戻らねーじゃねーか!! ……ぶっ、もしかしてオメェ蔵馬か?」
ギャハハハハ! とお腹を抱えて笑い出したのは、きっと、たぶん、間違いなく幽助だ。
だけど――。
「女の子、だよね?」
「そうなんだけどねぇ……」
「んだよ、その残念なモノを見る目は。見りゃあ分かんだろ!」
「うん、女の子になっちゃったみたいだけど、いつもの幽助と全然変わらないから、何か変な感じ」
「ここまで残念な美少女は、中々お目にかからないよねぇ」
「ぼたんちゃん、上手いこというね」
「そうだろう?」
「やかましい! それより、その怪しげな道具を片付けてから、元に戻る方法を探してきやがれってんだ!」
「あ、ぼたんちゃん、私もお願い! このままじゃ二人とも大変だよ!」
ずっと無言で、今も必死に私の腰にしがみ付いている蔵馬を再び抱きしめた。さっきから一言も話さないのが気にかかる。もしかして、幽助と違って彼の場合は中身まで幼くなってしまったのだろうか。
「……もう、帰りたい」
私の心境を知ってか知らずか、小さな蔵馬がポツリと呟いた。声が震えている。
「こっちのお姉さんに驚いちゃったかな? 大丈夫、私の家に行こうね」
両親は出かけているし、私の家の方がいいだろう。そう提案すると、蔵馬は心細そうに、私に擦り寄ってきた。
彼を安心させたくて、ギュッと抱きしめた。彼はますます私にしがみ付いてきた。
もう帰る、と二人に伝えようとしたのだが、
「あー、それがいいな。おめーら、とっとと帰れ」
「そ、そうだね。何か分かり次第、連絡するよ」
なぜか紅い顔をした幽助とぼたんちゃんに、先んじてうながされてしまった。
ハッと気づく。
「ちょっ、蔵馬!?」
そういえば、さっきから触れられているとは思ったが、その感触は、彼の頬でも手でもない。
――これは、唇?
額に、目に、頬に――触れるだけとはいえ――キスの雨を降らせているではないか。今は首筋に押し付けられている。思わず出そうになった変な声を呑み込んだ。
私は慌てて彼を引き剥がした。
涙目で睨むと、蔵馬は悪戯が成功した子供のように――実際、今は子供だが――ニッと笑った。
12.人前でイチャつく趣味はありません