中編・Dead or Alive | ナノ
01 死んだら驚いた!


 気が付くと、あたしはフワフワと空を漂っていた。

 どうやら――死んだらしい。












 人生五十年、と言ったのは誰だったか。享年が十四のあたしはその三分の一すら生きることが出来なかったなぁ、とこんな状況にも係わらず、呑気にそんな事を思っていた。少なからず、動揺しているんだろうか。
 空を漂うあたしの足元で、幼馴染の女の子がわんわん泣いている。既に自分の心臓なんて無いのに、胸が軋んだ気がした。
 昔から、彼女が泣くのは苦手だった。
「いつもなら頭でも撫でてやるんだけどなぁ……今回ばかりはそうもいかないか。死んじゃったんだし」
 慰めてやれない罪悪感もあるが、サヨナラしなければならない現世にも未練がある。なんてったって若いミソラだ。
 だけど――。
「ピンポン、ピンポーン!」
「ん?」
 声に釣られて頭を上げると、ピンクの振袖姿で青い頭――という何とも変わった、奇抜で派手な女がいた。
「ものわかりが早いねぇ。こーゆー突発事故だと、自分が死んだって信じない人が多いんだよ? そのまま成仏できなくて浮遊霊か地縛霊にななっちまうモンなんだけどさ」
 あたしは呆気に取られて女を眺めた。突然現れて、聞いてもいない事をペラペラと喋りだした、というのもあるが、驚く事に、女は箆(へら)のようなスプーンの様なモノに乗って空中で浮かんでいるのだ。
「誰だ?」
「あたしは三途の川の水先案内人、ぼたんちゃんよ。あんたは浦飯 悠だね、ヨロシク」
 三途の川の案内人ということは、いわゆる死神という奴か? と、女の正体を理解したが、語尾にハートでも付きそうな明るい自己紹介に、つい大きな溜息を吐いた。
「水先案内人だか死神だか知らないが、もうちょっと察してくれ。こっちは死んだばかりで、こーみえてもけっこうショックを受けてんだよ」
「その割にゃずいぶん落ち着いてるねぇ、大したもんだ。地縛霊歴50年のタケさんも真っ青だよ」
 誰だよ、タケさんって。
「まぁ、今更ジタバタしても変わらないからな。それに、あいつが無事ならそれでいいよ」
 幽霊となって浮かんでいるあたしの足元には、相変わらず泣き続ける幼馴染の姿があった。
 やっぱりあの子が泣くのは堪える。が、アレだけ泣けたら大丈夫だろう。彼女が助けようと飛び出した子供も、見た限りではカスリ傷一つないようだ。
「だからもういいんだ。あの世でもどこでも連れてってくれ」
 そう案内人の女に声を掛けたら、女は袖で涙を拭っていた。
「あんた、いい男だねぇ。あの子は恋人かい? 身を呈して恋人を守るなんて立派だよ! 愛し合う恋人同士を引き裂くだなて野暮な真似はしないよ! あんたには生き返るチャンスがあるのさ!」
「は!?」
 ちょっと待て、色々可笑しい言葉が出てきたぞ!? 生き返る? チャンス?
 いや、それよりも。
「なんでそーなる!? フツ―大事な幼馴染のあんな場面に遭遇したら誰だってああするだろう!?」
「やだよ、照れちゃって! あんたたちお似合いだよぅ!」
「いや、そーじゃなくてだな……」
 なぜだ。別に男の格好をしている訳でも、一人称をオレだの僕だのと言った覚えも無いというのに。そりゃあ、女の髪にしては短めの、いわゆるベリーショートだし。あ、今ジャージ姿だからか?
 仕方がない、とあたしは案内人の手を取った。今のあたしは身体の無い幽霊というヤツだが、彼女も似たようなものだろう。
「みぎゃーーー!!!! な、ななななあんた、女だったのかい!?」
 手っ取り早い方法としてあたしの胸を触らせた。思ったとおり、触れたようだ。まぁ、人並み程度にはあるからな。
「そーゆーことだ。分かってくれたか」
「わ、分かったよ、なんか勘違いしちゃって済まなかったねぇ」
 案内人の女は謝罪を口にしながら、それにしても、と言葉を続ける。
「あんた、その辺の男よりよっぽど男前だよ。勿体ないねぇ……」
 余計なお世話だ。
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