王様の耳はロバの耳 7
なんだかんだ言いながら、海藤君と仲良くなりました。
ノートの事件は、あれから何度かお茶を奢ることでチャラになり、それがキッカケで彼とは教室でも良く喋るようになった。
仲良くなった理由は、案外話が合う事と、お互い特定のモノに対する熱い思いを抱えた人種であることを認識し合ったのが大きい。
ぶっちゃけて言っちゃうと、彼も立派なオタクだったのだ!
分野分けするなら文学オタクになるのか? 私と違って随分高尚ではあるが、そうでない人達から見ると、理解されない部分も多分に持っているようだった。
そんなワケでお互いの前では、それを隠したり取り繕ったりする必要が無い。それが楽だから仲良くできるってのもある。
そして案外彼は真面目な男だ。
外見は、頑張って嘗められないようにしているんだぜ! とアピールしている所(髪型とか髪型とか髪型とか)もあるけれど、基本は優等生君だ。何てったって毎回試験で蔵馬君と学年のトップ争いをしているような人だし。
そんな彼がね、ここ一週間も休みっぱなしなんです。
そして彼ってば、困った事に、私しかクラスに友達が居ないらしいんですよ。
まったく、高校生の男の子が友達の一人も作らないなんて勿体ない。今度説教してやろうか。いくらプロ作家さんとはいえ、引き籠もってばかりいないで若さを満喫しろよーって。
……あら、やだ! 私も今は高校生だったわ! 病は 若さは気からよ、弥美! うん、もうちょっと満喫しようっと!!
「っと、ここかぁ」
脳内漫才を繰り広げている間に、海藤君のお宅に到着した。チャイムを鳴らして暫くすると、家人が扉を開けた。その姿を見て、私は首を傾げる。
「海藤君? 君、ずいぶん元気そうじゃない?」
「まぁね、ところで何の用?」
「用って、コレだよ。はい」
彼に手渡したのは、担任から渡された一週間分のプリントの束だ。見事担任から海藤君の友達認定された私に、お見舞いを兼ねたプリント配達の任が下ったのだ。
「わざわざ来てくれたんだ、悪いね」
「そう言う事。ちょっとは労れ、海藤君」
「まぁ、大した物は出せないけど、お茶の一杯くらいなら出すよ。どうぞ」
彼の申し出を受けて、ありがたくお宅に突撃することになった。春も半ばに差し掛かり、日中は暖かくなってきた。とはいえ、朝夕はまだちょっと肌寒かったから暖を取りたかったんだよね。助かったわ。
彼に出された日本茶をありがたく頂いて人心地ついた後、私は尋ねたかった質問をすることにした。
「ところで、何の病気だったの? もうすっかり良いみたいだから、大したこと無かったみたいで良かったよ」
「まぁ、もう平気だね。自分でコントロール出来るようになったし」
「コントロール?」
はて、病気の話じゃなかったのだろうか? お茶を口に含みながら頭の上にハテナを飛ばす私を、海藤君は色の無い瞳でジッと見据えたあと、思ってもみない単語を口にした。
「ところでさぁ、早乙女さん。蔵馬って誰?」
「ブハッ……!!! ゲホッ!! ゲホッゲホッ!! ……な、ななななんで海藤君がその名前を!?」
「君さ、以前、南野のノートを拾った時に何て言ったか覚えてる?」
――蔵馬君の、ノート、ダーーー!!
あはん♪
私 の オ バ カ サ ン ☆
「……サァ、ナンノコトカナ?」
「それだけ動揺しておいてよく言うね。あまり強硬手段は取りたくないんだけどなぁ」
海藤君がそう言った途端――。
ピンと空気が張り詰めたような気がした。
「あれ? 海藤君、何かした?」
「分かるんだ。オレの領域(テリトリー)を広げたんだよ」
「領域?」
「知らないの?」
「うん」
うっすらと聞き覚えは在るんだけどなー……なんだったっけ?
……あ。
「あーーーーー!!!!」
そうだ! 思い出した!!
アニメでやってたヤツだ!!
海藤君に初めて声を掛けられた時、初めてな気がしなかったのもそれだったのか!!!
あまり知らない筈の彼の思考が何となく分かったり、何でも無いときに彼の顔(というか場面)が思い浮かんだりしたのもそうか!!
てっきり、それらの諸症状から海藤君に惚れたのか? なんて自分で自分を不思議に思っていたんだけど、なーんだそうだったのかぁ!!
謎は全て解けた!
私面食いだから可笑しいと思ってたんだよ!! ←
そして、今の今まで思い出せなかったのは……海藤君、確かアニメの出番少なかったよね?
「そろそろいいかな。いつまで一人でブツブツやってるのさ」
「ああ、ごめんごめん。……ところで今から、やっぱり知りませんでしたってのはアリかな?」
「無しだよ」
「そーだよねー。うーん」
アニメで知ってたんだ☆ ってのはやめておこう。頭を疑われそうだ。とはいえ、本気であんまり覚えていない。だって毎回見てたワケじゃないし、小学生の頃の記憶だし。
さーて、どうしたものか。
「正直に言っちゃうと、おにー様に人間に不思議な力に目覚める者が出始めたって聞いただけで、あまり詳しくは知らないんだよ」
「話す気になったんだ」
「話せる内容は少ないんだけどね、私の正体くらいかなー」
「正体?」
「そうそう、実は私……」
ダダダダダダダと銅鑼の音が鳴る。やっぱり私の頭の中でのみだけど。
「霊界のプリンセスなんだよ☆」
ちょっと若さをアピールしたポーズを取ってみたけど、滑ったらしい。海藤君の視線が痛かった。