中編・王様の耳はロバの耳 | ナノ
王様の耳はロバの耳 3


 聞くところによるともうすぐ、あの悪名高い(という話を聞いた)暗黒武術会が始まるらしい。

 もちろん、私もおにー様にくっついていく予定だ。蔵馬君の晴れ舞台(?)だもんね!

 本当なら学校外のファン活動は厳禁なんだけど、武術会はまた別でしょ。ある意味、コンサートとかわらないよね!! とばかりに、彼の勇士を収めるべくマイカメラのお手入れをしていた私に、おにー様から思いもよらない一言が。


「先に言っておくが、あの大会はカメラの持込禁止だぞ」

「えーーーーー!? なんで! どうしてなんですか!! 理不尽!!!」


 私の生き甲斐を奪うつもり!? 武術会が近づくごとに高まってきたこの熱い思いを何処にぶつけろと!?

 私の本気の怒りに少々気圧されつつも、おにー様が教えてくれたことによると。


「お、落ち着け弥美。理不尽かもしれんが、昔から大会の規則で決まっておるのだ」

「規則〜? それってスパイ活動禁止とかってゆー理由ですか?」

「いや、それよりもっと重い……」

「重い? ……なんですか?」


 コエンマが珍しくマジな顔をして凄むモノだから、私も真面目な顔をしてゴクリと喉を鳴らす。


「うむ。利権問題だ!」


 り、利権かい!!!! くっ、久々に本気で転けたよ、擦りむいた鼻の頭が痛いじゃないか!!

 滑るときは、顔から逝かないように気をつけていたのに。今の私、女子高生だし。スッピンで過ごせるのはビバ! だけど、お化粧で隠す事が出来ないんだから。あ、ちがうか。どちらにせよ、女が顔に傷を作っちゃダメか。

 おっと、話を戻そうか。

 えーと、つまり、利権問題ということは。暗黒武術会、なんてご大層な名前が付いた大会だろうとも、しっかりバッチリ出資者が居てー。その出資者が例えばテレビの放映権とか撮影権とかを獲得しちゃってー。色々商業化されているワケですよ。金と利権にまみれているワケですよ!


 世知辛い大人の事情だな!!!!

 はぁ!? 霊界も一枚噛んでんの!?

 それじゃ、ゴリ押しも無理強いも出来ないじゃないか!! マイガッ!!


 私がさめざめと涙を流していると、気の毒に思ったのかコエンマが気を遣ってくれたようで。


「や、しかし、生で見るのが一番だぞ? なんなら最前列を用意させようか?」

「……おにー様ー、ぶっちゃけ最前列は怖いですー」


 魅力的ではあるが、最前列は試合の余波で即死コースでしょ! 私、赤ちゃん(こっちが本性らしいけど)に変わる事しか出来ないんだよ!


 私の言わんとしている事が分かったらしいコエンマは、何度か頷いている。


「そうだな、ワシもごめんだ」


 オイコラ。あんた妹に自分が出来ないモンを押しつけるつもりだったのか。これから鬼ー(おにー)様と呼ぶぞ!


 ……それにしても情けない兄妹だな。


「よ、よし、分かった! 特別にVIP席を用意させよう! 確かあそこなら特設モニターもついとったし、存分に試合鑑賞できるだろう!」


 その言葉に、私はガバリと身体を起こしてコエンマに飛びついた。


「おにー様! ありがとー!!!」


 (心の中だけとはいえ)鬼ー様なんて呼んでごめんね! 待っててね! マイスイートエンジェル!!

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