中編・王様の耳はロバの耳 | ナノ
王様の耳はロバの耳 18(完結)


――オレと、友達に友達に友達に友達に友達に……


 頭の中で何度も再生される彼の言葉に、私は大声で。


「無理ですっっ!!!!」


 即座に断りました!!

 だけど、それを受けた蔵馬君はスッと目を細めた。


(こ、こわっ!! え? 命取られちゃう!? でも、だけど、やっぱり!!)


「無理です、ごめんなさい、申し訳ない!!!」


 手をパーンと合わせて彼に詫びる。

 あれ? 何かこーゆーシチュエーション、前にもあったような? 私がそんな事を考えていると、蔵馬君から大きな溜息が聞こえてきた。


「ねぇ、早乙女さん。オレ、オタク嫌いなんですよ。何でか分かります?」


――お前、キモイ。


 甦ってきた、元彼の言葉。彼は私を吐き捨てるようにそう称した。それを思い出して、私は苦笑を浮かべた。


「気持ち悪いから?」


 彼がそう感じるのは仕方が無いと思う。理解出来ない感情、理解出来ない熱意、しかもそれを一方的に向けられるのだ。苦痛を感じても仕方がない。


「いいえ、ハッキリ言ってしまうと、視野が狭いからです」


 思ってもみない回答に、私は目を見開く。そんな私を見据えて彼は言葉を続けた。


「自分の信じるモノ、知っているモノを当たり前のモノと勘違いして押しつけてくるからです。こちらの話に耳を傾けやしない」


 おおっと、耳に痛い言葉だ。

 確かに、熱中してしまうと極端に視野が狭くなって周りが見えなくなることがある。蔵馬君にも自分の一方的な想いを押し付けて随分迷惑を掛けてしまったな、と今更ながらに反省する。


「ですから、オレと友達になりましょう?」

「……は?」


 ちょっと待って、どーしてそうなる!? 蔵馬君はオタクが嫌いじゃなかったの!? あ、いや、視野が狭いから嫌いだって言った? と、ゆーことは、つまり……つまり、どーゆーこと?

 私は頭から湯気を出しながら海藤先生にヘルプを求めた。

 先生は呆れた眼差しを私に送ってきたけど、それでも教えてくれた。だけど、猿にも分かるように言うけど、の前置きは余計だ!!


「友達になって視野を広げてみないかって事、分かった?」

「な、なるほど……」


 彼の追っかけとしての視点だけでなく、彼の友達になる事で、ある意味彼への偏見が無くなる、そーゆー事かな?


「まぁ、そういうわけです。お願いできませんか?」


 そう言って蔵馬君は握手を求めてきた。

 ボソッっと「からかいに乗るつもりはありませんが」と言った後に海藤君が舌打ちをした意味は分からなかったけど。

 ここまで蔵馬君が歩み寄ってくれたんだ。

 隠していた、ロバの耳はとっくにバレていたようだし。

 よーし、頑張ってみようか!!


「分かった、よろしく!!」


 そう言って、私も彼の手を握り返したのだけれど。


「っ……!! ご、ごめん!! 保健室が私を呼んでいるからまたね!!!」


 彼の手に触れることコンマ2秒。私は踵を返して走り去った。

 なぜなら。


「やっぱり、私って格好悪いーーー!!!!!」


 勢いよく鼻血が吹き出してきたからだ。

 実はずっと耐えていた微笑みの爆弾に加えてのボディタッチである。

 効 果 は 抜 群 だ!!!

 オタクから進化する道は見つけられそうだけど、彼とお友達になる道は中々険しそうです。



















 私が走り去った後の教室には、呆然と立ち竦む蔵馬君とお腹を抱えて笑いこける海藤君が居た。


「……なぁ、海藤」

「ハハハハ、ハ……な、何?」

「どういう事か分かるか?」

「アイドルを卒業する為のアイディアだったんだろうけど、その為にアイドルの卒業が必須だったみたいだな」

「………………」


 海藤君、大正解!!!





【王様の耳はロバの耳・了】

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
(2013.12.10〜2014.2.16)


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