王様の耳はロバの耳 17
どうしてこうなった。
良く分からないけど、先日からなぜか蔵馬君に接触を持たれようとしているみたいです。
もちろん、全力で逃げてますよ!!
だって思い当たる事ってば、先日のファンクラブの子達と揉めた件しかないんだもん。あの場に居なかった蔵馬君の耳にどう入ったかは知らないけど、良い予感がするわけないじゃーん!!
――ファン活動の本質は、対象を愛(め)でる事でしょーが!!
先日、思わず叫んだ自分の言葉を思い出す。間違いなく私の本心であるけれど、引かれる発言であるという自覚はある。
「キモイ、か……」
かつて私にそう言った男の顔はとっくに忘れてしまったけれど、言われた言葉はずっと覚えている。
そして、自分を隠したまま結婚の約束をした男の顔も――。
「どんな顔だったっけなぁ……?」
帰りたい、と願っても帰れないのは、どうしてだろうね?
++++
さっきまでの私のシリアスを返せ。
「ちょっと、海藤君! 私を売ったでしょ! 私たち友達じゃなかったのかー!!」
「人聞きの悪いことを言わないで欲しいな。君がオレに助けを求めてきたから協力したまでじゃないか」
状況を説明すると、私は今、とある空き教室にいる。例によって蔵馬君から逃げてきたのだ。
早乙女さん、こっちこっちと手招きする海藤君を見つけた私は、彼の友情に感謝してこの教室に入った。のだが。
本人(蔵馬君)が居たのだ……!!!!!
「私が何から逃げていたのか知ってた癖にー!!!」
ぎゃーすぎゃーすと海藤君を責め立てたが、彼はどこ吹く風だ。おかしい、私の方がおねーさんのハズなのに!!
「そろそろ、落ち着きなよ。高校生にもなって小学生でも出来ることが出来ないオレのもう一人の友達の為にさ」
そんなワケで、蔵馬君の前で海藤君と言い合いをしていたのだが、海藤君の『もう一人の友達』という言葉に私は首を傾げた。
だって、彼の友達は私一人だと思っていたからね。
「早乙女さんが失礼な事を考えている事は分かってるよ。だけど、一応オレ達、友達だろ?」
そう海藤君に問われた蔵馬君だけど。
「オレとしては、小学生以下と言われた方に物申したいな」
「的確な表現だと思うぜ」
「……ハァ」
何やら疲れた様子の蔵馬君だけど、海藤君とのやり取りは『悪友』っぽくって中々微笑ましい。
さっきまでの怒りを忘れて、思わず生温かい目で彼らを眺めていると、蔵馬君が一つ咳払いをした。
「早乙女さん、もう逃げないんですか?」
蔵馬君の言葉に私は苦笑した。
「ここまでお膳立てされて? もう逃げないよ」
何を言われるか分からないけど、覚悟を決めようか。いくらなんでも命まで取られないよね?……隠しコレクションさえ、見つからなければ。
「それじゃあ、言わせて貰いますけど」
蔵馬君の言葉に、私はゴクリと喉を鳴らして。
「オレと、友達になりません?」
大いにズッコケた。