王様の耳はロバの耳 13
兄が反抗期を迎えたようです。とはいえ、反抗期と呼ぶのは些か過激だけどね。
「弥美、お前はワシを軽蔑するか?」
コエンマが、父親である閻魔大王を告発した。
告発内容は、これまでおとー様やおとー様を持ち上げてきた霊界上層部が行ってきた事案だ。ジョルジュさんにお願いして私も資料を見せて貰った。
「しないよ。おとー様には悪いけど、私はおにー様の意見に賛成する」
正直、目を覆いたくなるような非人道的とも言える内容の数々だった。これを知った真面目で優しいおにー様が行動しない筈がない。
「私はおにー様の味方だよ。でもね」
「でも、なんだ?」
「おとー様の味方でもいようと思ってる」
私の言いたいことが分からないのか、おにー様は首を傾げている。
「だって私たち、家族だもんね」
公の立場に囚われていない私くらい、家族として貴方たちと接するからさ。
もちろん貴方の分も。
だからそんな泣きそうな顔をしないでよ、おにー様。
++++
「まぁ、そんなワケで今の霊界は大分バタバタしてるんだよ」
「へぇ。どこの家庭でも大なり小なり家庭内のイザコザがあるものだろうけど、君の所は規模が違うね」
「権力ある分、負ってる義務が半端ないからね。だから亡者の皆さんの処理がてんやわんやらしくてさ。地獄行きだろーと天国行きだろーと通常の数倍時間かかっちゃって大変らしいから、今は死なない方がいいみたいだよ」
「死ぬつもりないから、そんな情報は要らないなぁ」
「あ、やっぱり?」
先程から海藤君と、結構ブラックでシュールな話をしている。が、あくまでも此処は学校の教室だったりするんだな。
とはいえ今は自習時間なので、各々自習に励んでいる最中だ。つまり私たちも社会勉強という名の情報交換に勤しんでいるワケなのだ。些かブッ飛んだ社会情勢だけどね。
こんな怪しい会話が聞かれたら大変じゃないかって?
大丈夫! テストが終了した後の授業だから、クラスメイトの皆さんは気が緩みまくりなのさ。
大半はテスト勉強で溜まったストレスを発散させに行ったから。つまり自主的課外活動という名のサボりね。
ちなみに、蔵馬君は担任の先生にお呼び出しされました。どうやら進路の事で揉めているみたいだ。
優等生は教師陣から過大な期待を寄せられて大変だね。
「そう言えば、先日南野が浦飯君達と戦うことになったって言ってたけど、ソレは知ってる?」
「知ってる知ってる。ソレってケンカで魔界の大統領を決めるトーナメント戦に発展したよ」
「……それ、言いだしたの浦飯君?」
「すごいね正解! どうして分かったの?」
「彼とは少ししか面識が無いから曖昧な感覚になるけど」
海藤君は少し口ごもった後、少し間を置いてから口を開いた。彼なりに言いたいことを整理していたのかな?
「浦飯君は口より拳で語るタイプだからってのが一つ。だけど一番の理由は周囲を巻き込むのが上手いからかな。自然と騒動の中心に入って行って、その本質を変える力がある。その時の彼は台風の目だ。実に鮮やかに、思っても見ない方向へ持っていくのだから、全く呆れるばかりだよ」
「……海藤君や」
「何?」
「もう少し分かり易くお願いします」
作家さんな君にとっては空気のような表現かもしれないけどね。分り難いんだよ!!!!
私の言葉に海藤君は溜息を吐いた。いや、悪いのは私の理解力のせいじゃないからね!?……そーだよね?
「簡単に言うと、そんな気がしただけだよ」
「なぁんだ、それなら最初からそー言ってよ! 海藤君ったら回りくどいなぁ!」
あはははーと笑う私に海藤君はまた溜息を吐いた。
「それで、そのトーナメント戦はどうなったの? もしかして、前に聞いた武術会の時みたいに見に行ったとか?」
「もちろんバッチリ見に行ったよ! 写真いーーっぱい撮ってきちゃった!! 見たいなら見せてあげるよ!!」
今回は別行動は許さん!!と凄んできたおにー様と一緒に客席で観戦してきました。だから以前ほど写真撮れなかったけどね、それなりに良いのが撮れたのだよ。
これも日々追っかけをたゆまぬ努力を積み重ねているお陰かな。フフフフフ。
「うわぁ、殆ど南野ばっかり」
海藤くんはそう言って、少し見ただけで早々と返してきた。そりゃあ海藤君に同意を求めるつもりは無いけど、何か腹立つなー。
「この桜とのショットなんて、素敵だと思うんだけどなぁ」
蔵馬君は傷だらけでかなり痛々しいけど、彼の心情が現れたいい写真だと思う。
うん、やっぱりいいな。帰ったらコレは引き伸ばして部屋に飾ろうっと!!
私が着々と放課後の計画を立てていると、海藤くんがぽつりと。
「早乙女さんって、本当に南野の事が好きなんだね」
などと言ってきた。
「ブッ……!!!」
私はココが教室だという事を忘れて、大声で笑い出したくなったのを何とか抑える。両手には全力で口が開かないように頑張って貰いましたよ!!
そんな私の様子に怪訝な顔をする海堂君の肩を叩いておく。
「イヤだなぁ、追っかけの皆がみんな、アイドルに恋してるワケないじゃない」
ヤレヤレこれだから坊やは。と、私が大げさに肩を竦めてみせたら、珍しく海堂君の表情が動いた!! 口元が引きつって、コメカミがピクッってなった!! しかもプルプルしてる!!
笑いたい!! 指差して笑ってやりたい!!!
お、落ち着け。落ち着くんだ弥美! ココは教室だ!
私は大きく息を吸って気を沈めてから、補足を口にした。
「ま、擬似恋愛を楽しんでいるとは思うけどね。私の場合、好きなモノを追っかけたくなる本能が追っかけろと訴えているのだよ」
あぁそう言えば、似たような勘違いをおにー様もしていたなぁと思い出した。
実はもう蔵馬君監視の任は解かれていたりする。そりゃあそうだろう。武術会、前・霊界探偵が引き起こした魔界の扉騒動、そして今回の魔界トーナメント。彼は霊界に協力こそすれ、霊界に牙を向ける事などまったく無かったのだから。
ましてや魔界の扉の件なんて、霊界の尻拭いの手伝いとも言えたしね。
だから、もう私がこの高校へ通う必要などない。だけど、まだ行きたい!! と力いっぱい主張してみたら、アッサリ許可が下りたのだ。
任を解いたおにー様自ら。
だけど、あれはどうも勘違いしてるっぽい。
(うーん、ちらっとシークレットルームを覗かれたのが不味かったのかなぁ?)
そんなに、誤解されるような行動を取ってきた覚えは無いんだけどねぇ。
だってさ。
「好きなモノを好きだーって想う気持ちは止められないじゃない? 君だってそーでしょ?」
同じくオタクの海堂君にドヤ顔で言ってみたら。
「原始的な狩猟行為みたいだね。霊界の人だからって二の足踏んでないで、そろそろ人間の進化に追いついてきなよ」
これでもかと言う程の辛辣な返しが返って来ました。