中編・王様の耳はロバの耳 | ナノ
王様の耳はロバの耳 12


 私は痛み出した頭を抱えたいのを我慢して、取り敢えず段々とボルテージが上がってきたシアンの女の子に意識を戻した。


「あのー、つかぬ事をお伺いしますが」

「なによ!!」

「飛影君と恋人になりたいのに、どうして最強設定を選んだんでしょう?」


 百歩譲って、彼女が自称・神様の言ってた女の子の一人だとしても。彼女が目的の為に選んだ選択の理由がサッパリ分からないんだけど。


「バカね! 相手は飛影よ!? 強い相手と戦って負けて、しかも男だと思っていた相手は女の子だった! そこから恋が始まるんじゃない! 夢小説の王道よ!!」

「……はぁ」

「そうよ! その為に、わざわざ男装までしたのに……なのに、なのに、負けちゃったーーーー!!!!」


 再び泣き出した彼女をどうしたものかと思いながら宥めていたら、気が済んだのか、彼女は涙を拭って顔を上げた。


「ありがとう。貴女からしたら、見ず知らずの私の愚痴に散々付き合わせちゃったわね」

「あーいえいえ、大したことしてませんから」

「ちょっと懲りたわ。こないだ出た最新刊が武術会の中盤戦だったから、その時点の最強キャラと同じ強さにして貰ったんだけど、そもそもそれが失敗だったみたい。バトル漫画のパワーインフレって怖いわね。今度はバトル漫画は止めておくわ」

「……はぁ」

「さて、もう帰ろうっと。……って、どうやったら帰れるのかしら?」

「帰りたいーと強く願ってみてはどうでしょうかねー?」

「何言ってんのよ、そんなんで帰れたら……」


 シアンの子が若干私をバカにしたように、言葉を並べていたら、彼女は見る見る薄くなってゆき――。


 綺麗に、消えてしまった。


 あーなんとゆーか。


「……骨折り損の、くたびれ儲け。ってか?」


++++


 後日。

 私はシークレーットルームに篭って、コレクション達に癒されていた。


「はぁ、癒される……」


 思った以上にガリガリと精神値を削られていたようだ。そんな時は、自慢のコレクションに囲まれて、先日ゲットしたビデオ鑑賞に限りますな!!


「あ〜〜もう! 蔵馬君、可愛いなぁ〜〜〜〜!!」


 蔵馬君の色んな表情が一度に拝めるこのビデオはホント秀逸だ! 海藤君ってば良い仕事してるよ! GJ! もちろん一番のお勧めは『例のシーン』だ。ふふふふふ。

 それにしても。

 今回の事件で一番疲れたのは、自称・神様の相手だったような気がする。夢の中とはいえ、あんなウザイ人には二度と会いたくないものだね。

 ちなみにピンクの女の子は、さやかちゃんに切々と説教をされた結果、凹みまくって帰って行ったらしい。

 ご愁傷様です。

 何を言ったんだ、さやかちゃんや。


「あ、そーいえば、三人目はどうしたんだろう?」


 確か蔵馬君狙いの逆ハー主だっけ? 彼女の姿を見ていないけど、蔵馬君の周りでも見当たらなかったよなぁ。気が変わってさっさと帰ったのかな?

 それならそれでありがたい。マイスイートエンジェルがマイスイートエンジェルで無くなるなんて、太陽が西から登るよりショックだし、また良く分からない子の相手をするのも、もう勘弁だ!!

 などと私は、当たると言えども遠からずな結論に至り、さっさと考えるのを放棄してしまった。だから、この世界のイケメンを救ったのは、とある一枚の写真だったという事実を知らなかったのだ。

 私がシアンの子と話していた頃、外出中だった海藤君は、レモン色の髪をした女の子にぶつかったらしい。

 とあるビデオの一場面を現像に出し、それを受け取った帰りの事だった。そのビデオとは、私のお気に入りの一本であり、彼が言うところの『試合に負けて勝負に勝った』モノだ。

 そして女の子とぶつかった際、うっかり現像した写真を見られてしまったそうで、それを見た女の子は顔を真っ青にして走り去ったという。

 こうして、自称・神様が引き起こした三人娘の事件は幕を閉じ、かくして世界は平和になったのだった。


++++


S・D・Sランキングに参加しております。暇潰しにはなった、と仰って下さる奇特な方はクリックお願いします☆彡

拍手
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -