王様の耳はロバの耳 10
あのですね。
ワタクシってば、霊界のプリンセスなんですよ。
今更? と思うかもしれませんが、何だかんだとプリンセス待遇の恩恵を受けております。
スイッチ一つで開け閉め可能な秘密のコレクション部屋を作って貰ったのなんて、その最たるモノですな! しかも、ちゃーんと防音機能付きなのだよ! フハハハハハ!!
そして、彼女もその恩恵の一つだったりする。
「弥美ちゃん、もういい? 前フリ長くない?」
「うん、もういいよ、さやかちゃん。解禁するからどんどん喋って!」
「夢主も大変ねー」
「漫画やアニメと違って夢小説は文字だけだから、説明文や紹介文が必須だもんねぇ。しかも管理人が一人称を練習したいって始めた中篇だから主に私が頑張らないと」
「お疲れ様! だけど、そこまで言っちゃうのはマズいと思うわよ?」
「あーそうかもね。編集さーーん! 今のところカットでお願いしまーす!!」
「よろしくねー!
それで、今日は何して遊ぶ?」
「何しよっか? 今日は学校が休みだし、コレクションの整理は昨日やっちゃったから暇してたんだよ」
「台詞が説明臭いわよ、弥美ちゃん」
「えへ☆」
お名前でお気づきの方はいらっしゃっただろうか。
彼女の名前はさやかちゃん。以前、人間界で幽霊をやっていた事があり、霊界入り出来ずに暗黒界に落ちそうになっていた所を浦飯君に救われたそうだ。
それ以来、浦飯君の行く末を霊界で見守る為に転生を見合わせているとゆーとっても健気な女の子なのだ。
そんな彼女は、現在プリンセスたるワタクシの話し相手となってくれている。何もせずに霊界のお世話になる事を渋ったさやかちゃんと、おにー様との舌戦の現場を見た私がナンパしちゃったんだー。
まだ小さいさやかちゃんに、霊界の鬼さん達と同じ仕事をして貰うのは難しいしね。
そして、今日も今日とてたわい無いお喋りに花を咲かせていたのだけど、ふいにさやかちゃんが口を噤んで俯いた。
あれー? どうしたのかな?
今人間界で流行っているお笑いのネタがウケなかった? あ、それとも私がスベった!? 自信があっただけに恥ずかしい! もっと練習すれば良かった!!
「……ねぇ、弥美ちゃん。弥美ちゃんに、お願いがあるの」
「分かった! 今度はもっと練習を積んでから披露するよ!」
「え?」
「あれ? さっきのネタの話じゃなくて?」
「あっ、ごめん、違うの。ネタは……まぁもう少し頑張った方がいいと思うけど。お願い事はソレじゃなくて……」
「あ、なんだ。うん、お願い事って何?」
年長者の余裕を見せて笑顔で聞いてみたけど、地味にショックを受けていたりする。……もう少し、だったんだ。気を使わせて『もう少し』。
不味かったのは、間の取り方だったのだろうか。それとも声色の使い分けが失敗してた!?
いやいや、今はさやかちゃんの話を真面目に聞こう!
小さいながらも私の話相手という『お仕事』を頑張ってくれていたさやかちゃんの、初めてのワガママじゃないか!
そーいえば、初めてになるんだよね。それなりに打ち解けてくれてたようだけど、本当に気を許してくれたみたいで嬉しいなー。
だけど仕事に対する責任感からか、言い出しづらそうに、視線をウロウロさせているさやかちゃん。そんな彼女に再び笑顔で尋ねてみると、ようやく口を開いてくれた。
「人間界に行きたいの。幽助にいちゃんの様子を見に行きたいの!」
胸騒ぎがするから、と付け加えたさやかちゃん。
もちろん浦飯君には螢子ちゃん(さやかちゃんに教えて貰って思い出した)というガールフレンドが居ることを彼女は知っているし、ちゃんと二人の仲を認めている。
だけど、心配で仕方が無いそうだ。そんなさやかちゃんが健気で、いじらしくて、私の胸がキュンキュン言い出しちゃったのは仕方が無いと思う!!
もちろん合言葉は。
「いいともーーーーー!!!!」
ついでにドサクサに紛れて力いっぱい抱きしめておきました(事後報告)!!
++++
霊界タクシー、もとい空飛ぶ案内人のぼたんさんとあやめさんにお願いして人間界に着きました。櫂の定員は二人までだから、二人にお願いしたら、快諾してくれたのだ。ありがとう!
そして只今私達、四人共に目の前の光景に呆然としております。
だって、ねぇ。
「幽助ー、待ってよぉー」
「だー!! お前ェ、もうついて来んじゃねーよ! なんなんだ、一体!!」
空いた口が塞がらないのさ。
浦飯君が絶世の美少女に絡まれている! もしかしなくても、逆ナンですか!?
彼も彼で、さすがに女の子相手に乱暴な事は出来ないらしくて手を焼いているみたいだ。ドロー出来る手札が無いようで、ずーっと女の子のターンが続いている。
「ねー、ぼたんさーん」
「…………」
「ぼたんさん? ぼたんさーん! おーい!」
「あ、は、はい! なんでしょう、弥美様!!」
浦飯君の助手としては複雑だろうなぁ、と苦笑を浮かべて、気になったことを聞いてみる。
「浦飯君と一緒にいる子、すっごく可愛いけど何人なんでしょうねー。蛍光ピンクの髪の人ってパンクバンド以外で初めて見ましたよ。もしかして、彼女は人間じゃなくて霊界か魔界の人だったりします?」
私の問いに、案内人の二人は暫くピンクの女の子を眺めた後、揃って首を傾げた。
「うーーん……一応、人間のようです」
「一応?」
「何か変な感じがするんですよねぇ。そっちはどうだい?」
「私もです。何に、かまでは分かりませんが……」
「そっかぁ、ありがとう。ぼたんさん、あやめさ「何なの!! あの女!!!」……さやかちゃん?」
今まで会話に加わって来なかったさやかちゃんだけど、一人静かに怒りに震えていたようだ。
うっわ! 瞳の中に炎が見える! これは半端な怒りじゃないなぁ。と思いながら浦飯君達を見ると。
「ちょっ、浦飯君が押し倒されてる!?」
「最近の若い人たちは進んでますねぇ……」
「「コラーーーーーー!!!!!」」
あまりの展開に、ぼたんさんの瞳にも怒りの炎が着火! そのまま、さやかちゃんと二人で浦飯君に向かって走り出して行く!!
そして始まる惨劇!!!
さやかちゃんのとび蹴りがピンクの女の子に炸裂!!
ぼたんさんは浦飯君の襟元を掴んでガクガク揺すりながら、何やってんだい! 螢子ちゃんに悪いと思わないのかい!? とお説教がスタート!!
まさにリアル地獄絵図のようだ!
きっと霊界の地獄も真っ青じゃないかと思うほどの阿鼻叫喚!!
そして、すっかり出遅れてしまった私とあやめさんの二人は、どうしようかとお互い顔を見合わせている。
そこへ。
ピリリリリリリ……
「あれ、この音って……」
「コエンマ様からのコールですね、弥美様、少々お待ちください」
アタッシュケース型通信機におにー様が映し出された。何やら慌てた様子だ。
「おお! 弥美もそこにおったか! 丁度良い、そこから南西5キロの時点で、激しい闘気の衝突が確認されたのだ! お前らが一番近い! 止めろとは言わんが、様子を見てきてくれ!!」